八百三十ニ生目 冒労
「な、なんでた」
「意外とコツがいるんですよ。飛来系は斬ったあと捨てる動作を捻らないとこっちに飛んでくるし」
「と、とまれ!」
「やってみると大変だけど面白いですよ。設置系は起動前に切り崩すのが良いのですが、難しければ勢いを利用して……自分を飛ばしつつ崩す!」
「ひいっ!?」
「現象系……これは炎の放射ですね。物質が無いので、思い切りよく剣圧乗せてふっとばしましょう。まあこれ斧ですけれど」
目の前まで来て肩に手を置く。
それだけで崩れた。
合気道じゃなくて単に腰が抜けたらしい。
サクッと交代して最後である。
「な、なんなんだよ、こんなのマグレで……」
最後は盾と剣を持っていた。
うーん全然身動きと一致していないぞ。
「本当にやるのか……?」
「こうなったら! 引けるかってんだ!」
「そうか……始め!」
相手は完全にこちら待ちで固まってしまった。
よしちょっと仕掛けるかな。
力技だけれど重く。
私は踏み込むと同時に……投擲した!
斧はキレイな円を描いて盾に食いつく。
ほぼ同時に私は斧へ飛びついた。
「そりゃ!」
さすが斧だこんな扱いしてもちゃんと相手の盾へと食いつく。
盾にクリーンヒットした斧は大きな音を響かせ……
私がキャッチして振るうことで相手の盾を大きく吹き飛ばした。
「ハアっ!?」
大きくのけぞった相手にそのまま斧をぶん回して。
首元に!
「まってまってまってください!」
ピタリと斧を止める。
男は凄まじい汗をかいていた。
声の方を見ると……ああタイムアップだ。
ギルド員の受付がこっちに息を切らしながら話していた。
審判の方をチラとみると頷かれた。
だよねえ。斧を首元から離す。
「無効試合だったさ。だから、これは命令じゃなくてお願いなんだけれど」
さっきのふたりと目の前のひとりに聞こえるように。
そっと撫でるように。
"無敵"の声が届くように。
「これからは、誰かを食い物にせず、真っ当に働いたほうが良いよ」
私はわざと斧を地面へと突き立てる。
ビクリと全員が震えうなずいた。
よしよし。
「……え? あれって模造品だよな? なんで刺さってんの?」
「すごい音したんだが……」
「え、なにこれ抜けなくない?」
背後でざわつくのを聞き流しながら私はギルド員の横に並び立つ。
ギルドの方もまあまあな汗をかいていた。
「ごめんなさい、少し遊んでました」
「ほんと、ほんと申し訳ありませんうちの冒険者たちが何か粗相を……! こちらへ、とにかくギルドマスターのところへ……!」
ものすごい平謝りされギルドマスターのところへ連れて行かれた。
まあ責任はわかるけれど別に彼らが悪いというわけでもないんだけどねえ。
目をかいくぐっていたのは誰の目にも明らかだし。
ギルドマスターは若かった。
若いのに前髪と目に疲労が凄まじくにじみ出ていた。
「まさかうちの若いものが迷惑をかけるとは……」
「いえいえ。お顔をあげてください。ああいうのは、我々冒険者サイドからもカバーがいりますから。短時間なら今回の釘打ちでなんとかなるでしょうが、その後はそちらのお仕事ですし……」
初手で謝られた。
こちらもまあそれ相応に乱暴な手口を使ったからね……
あれこれと互いに譲りつつ話が落ち着いたところで。
「……そういえば、彼らの武器、合っていなかったんですが初心者講習は受けてはいないので?」
「初心者講習ですか……その……言いにくいのですが、ここではやっていないのです」
「ええっ!? それはまずくないですか!?」
「せ、正確にはやっています! しかし、1度やるごとに領主様に多額の税金を収めなくてはならず、そのため受講料が非常に高額になっていて……」
「冒険者労働組合は、さすがにそこまで介入してくれないですよね……」
「はい……こちらも利益団体のため、差額赤字では行えなくて」
うーむそれはだいぶまずいだろう。
そもそもなんで授業にそこまで税金かかる設定してるんだ。
ちょっとずつ領主組に腹立ってきた。
ただここで腹を立てていても彼らに威圧感を与えるだけである。
イッツスマーイル。
「そうだ……それに連なることなんですけれど、道中、代理受領の形で村から依頼を受けました。問題はないですよね?」
「依頼を? それは問題ないですが……支払いは大丈夫なのでしょうか」
「農業ギルドとの通例での、支払い負担の保険はどうなっていますでしょうか?」
「……その、そちらも領主様が……簡単に説明すると、農業ギルドへの通知で税金、保険適用で税金、冒険者ギルドへの支払いで税金、村から冒険者ギルドに残りの支払いで税金とかかってしまい、恐ろしく高い額に……税金は我々や農業ギルドが負担はしきれずどうしても反映することなりますし、使わないほうがずっと安くなるんですよ」
なんだそりゃ……




