八百二十七生目 素性
村長さんの愚痴混じりの話はこうだ。
おそらく私を信用してくれたのだろう。
「現在の領主様の代わりに、部下たちが見回りや管理を引き受けている様子で、村長さんたちもその部下たちが良く会う……けれど、その部下たちは非常に横暴で、税も不正を疑うほど重く、そのせいで蓄えもなくなっていた……ってことでしたよね」
「聞いただけで覚えたんだ! すごいねミアさん」
「え、へへ……昔から聞いたことは記憶に良く残ってたんです」
私とミアさんは共に村を出ていた。
さっきの話を反芻するようにしながら。
つまるところ今の支配者層はニンゲンをニンゲンとして見ていないらしい。
ひどいというのは酷いもあるが非道いもある。
献上品という名の略奪は当たり前。
女子供は攫われ1晩帰ってこず帰ってきたら何も口を聞かない。
ちなみにあの村でも似たような状態だったから女性たちは明らかに被害側のミアにあたってもらっていた。
山賊風の男たちは完全な別口なのはなぜか良く口が回るようになった彼らから聞いている。
なんでなんやろうなあ。
「姐さん! 拘束といてくれよ! 役にたたせてくれ!」
「お前! おまえだけ姐さんに媚び売るな!」
「姐さん〜もうオレたちが話せることはないけれど、今ならなんでもしてやりますぜ……?」
彼らは台車を使わず自主的に歩いていた。
自ら捕まりに行くと志願してくれたのだ。
まあこれに関しては少しわかる。
まず逃げ出せないことを骨身に染み込ませたこと。
"無敵"を使って敵意を削り気持ち親身にならせたこと。
だがここまでは単なる気分の変化であり脳内情報が置き換わるような洗脳はない。
大事なのはこれらを踏まえたうえでここが寒村だったこと。
……小さな村は多少の自治権が認められていることが多い。
警察や衛兵があるところばかりではないからだ。
さてそこで捕まった賊はどうなるか。
彼らは言ってしまえばチンピラであり良くも悪くも警察に捕まれば多少の罪を償うことで終わる。
しかし治外法権かつ苦心している環境でそこまで倫理とか人権とかあるはずもない者たちに囲まれればどうなるか……
なにせここの領主の部下たちですら略奪と拉致をしてるのだ。
村人たちが賊に加減してやるいわれもブレーキも、ない。
「なんだかほんと馴れ馴れしいですね……」
「まあ、もう少しの辛抱だから……それにしてもきっとこのあとのほうが大変だ。まともに話が出来る相手がいればいいけれど」
「そうですね……」
「それとミアさんも、街でお別れになりますからね」
「そうで……ああっ!? そうですね!?」
すっかり忘れていたらしい。
「もちろん、ちゃんと手続き終えるまでは一緒だけれど、逆にそれ以上はね。あなたが待ってる村もあるからね」
「……ええ。残念です。わたしも、ここまで来ると気になっていたけれど、帰らなくちゃ」
「うう、残念です……」
そもそもずっと連れ歩くとさすがに今度は危険に巻き込まれるかもしれない。
私のそういう運は信用をしていないんだよね。
それに……流れによっては私は山賊風の男たちの本拠地に乗り込むことになる。
そう流れによっては。
ここからがあまりに面倒そうな話だ……
私達は歩いて近くの街へたどり着いた。
随分と活気はないけれど。
やはり山賊風の男たちの話と同じか……
彼らは元村民だ。
さらに踏み込めば徴兵された村民。
その部隊が1つまるまる賊している。
なぜそんなことになっているのかは長々語ってくれたがようは無責任な解雇である。
大規模な戦闘があるとして徴兵されたが大した活躍をせず解雇。
下っ端だったしだいたいの相手は把握していない。
魔物相手になるはずだったそうだが……
普通は多少もらえるはずだった賃金すらもらえず蹴り出し。
強い不信感を覚え村に帰ろうとするが村は重税で食い扶持がない。
そして食う口など減らせないのだ。
幸い餞別代わりに配られた武具は持ち出せた。
質は悪いが武具は武具。
そんな元村人たちがやったことは……賊化だった。
どんどんと食うためにプライドも倫理もない知識や知恵もない集団へと成り下がっていく。
それが今の成れの果て。
自分の村の食い扶持を減らさないためのはずがいつのまにやら他の村から食い扶持を奪う側へ。
しかも何が悪いかってお手本がいた。
領主組だ。
もちろん領主組は賊を赦しはしていないが領主組がやっていることが賊みたいなものだもの。
当然のように人攫いにも手をつけた。
二束三文で売り払う予定だったらしい。
そう……信じられないが人命が二束三文なのだ。
明らかに騙されている価格だった。
互いの素性を明かさないビジネスのため誰かはわからない……




