百八十七生目 土下
朝になってから赤蛇や黒蜘蛛の元へと飛んで訪ねると前回の狩りが好評だったらしくてお祭り状態だった。
久々に大量に食べれたから満足したのだろう。
前までのイライラムードがなくなっていた。
これ幸いと早速酪農や農業の話をすると、
「定期的に前よりは安定して食えるなら良いな! 数だけはいるんだ、貸すぜ」
「我の方は問題ない。手すきのやつらを向かわせよう」
快く引き受けてくれた。
これでインカの作業が一気に進めば良いのだが。
ちなみにインカに蛇や蜘蛛が食べるものも一通り伝えておいた。
どちらも虫が食べられる事を知ると、
「虫って育てられるのかな……?」
と良い発想をすでに持っていた。
私の前世知識も役に立ちそうなものは役立たさせよう。
狩りに農業に忙しいだろうがインカは楽しそうだ。
お昼頃に再び私のテントでコボルトと会う約束だ。
昨日はドラーグに空いているテントに案内させたけれどちゃんと寝れたかな。
野宿に慣れていそうだったから大丈夫だとは思うけれど。
「あ、あの! ローズオーラさん、入ります!」
「どうぞー」
あれ? 名前教えたっけ。
いや、依頼書に名前書いていたから知っているか。
にしてもなんだか緊張しているような……?
「昨日はスミマセンでしたー!!」
スザーッ!
勢い良く土下座に移行しつつスライド土下座とは逆に身体を倒して腹を見せる。
うん、わかるよ、これは服従とか降参とかの腹見せだよね?
ただいきなり何が、え、なぜ?
「ど、どうしたの? いきなり」
「ドラゴンさんに聞きました! あながここのトップリーダーだと!! あんなになめた態度とってしまい申し訳ありませんでしたーっ!!」
あ、あれ。
言ってなかったっけ。
まあ正確には違うから……とも思うしなぁ。
とりあえずなだめてから説明をする。
確かに私を慕ってみんなついてきてくれていること。
ただ形としては複数のリーダーでやっていること。
あのドラゴンことドラーグもそのリーダーのひとりだということ。
そこらへんを解説したら再びコボルトの顔から血の気が引いた。
毛皮があっても結構わかるね……
「ひええ……あのドラゴンさん、ええとドラーグさんはそんなこと一言も……! 彼にも謝らなきゃ……!」
「いや、大丈夫だから! みんな気さくだから! 必要ないから言わなかったんだと思いますよ!」
私の脳内でドラーグとコボルトの謝り合戦が繰り広げられる図が思い浮かんだ。
間違いなくそうなる。
それは事前に阻止せねば。
とりあえず普通に座ってもらい説得した。
コボルトは座ってもらって私と同じぐらいの目線になるのでこの方が話しやすい。
「まあ、とにかく、ね。昨日聞きそびれたことなんだけれど、どうしてこのテントの群れへ来たのですか?」
「ええと、それは昨日言った通りコボルト族は旅をして……」
「ああそうじゃあなくて、私たちの群れをどうやって見つけてどうしてここに来ようと思ったかって事ですね」
そう聞くとコボルトはああと気づいた表情を見せる。
とりあえず"読心"して警戒しておこう。
「私の能力に風の運ぶ便りを聴くというものがあるんです。くだらないことから有益なことまで、誰かのどうでもいいつぶやきが私に理解出来る形で聞こえるんです。
普段は暇つぶし、集中して探せば獲物になりそうな相手の位置なんかがわかるかもしれない、そんな大したことのないスキルなんです」
「ちょっと面白そうだけれど……それで?」
「はい。ある日そのスキルをなんとなく使いだしてから急激にこの場所に関する情報が増えまして……私が行く先も思いつかずに途方にくれていたのもあるかもしれません。ついフラフラと向かってしまったんです」
フラフラっと来られるような所だろうかこの迷宮は。
そう尋ねたら「フラフラっと来れるほどに情報が充実していましたから」とのこと。
それほどまでに強烈にそのスキルのアンテナに引っかかったのか。
「それでここを見つけて、探索していたら冒険者ギルドにたどり着いたのです。人間族からその存在と役割は聞いていたので、もしかしたらこの魔物だらけの場所でなら、私も働けば仲間に入れてもらえるんじゃあと思いまして」
「それで自分が使える癒やし手募集に……」
「はい。それに働けば食事も買えるって聞きました。人間族から何度か聞いたことがあったお金でやり取り出来るんですね。こういうことを考えたのも、ローズオーラさんですか?」
「いや、まあ、私だけじゃあなくて実際に数は少しだけど、ニンゲンも手伝ってくれているんだよ」
ははは、と半ばごまかした。
ただ相手の言葉に少なくとも嘘は見受けられない。
"見通す眼"は使ってさえいれば嘘に反応するからだ。
それにしても、この付近でのやはり魔物界ではそこそこ有名になっているのかな。
今回コボルト1匹がフラフラっと来ただけなのは良いけれど、それを誰も感知出来ていないのはまずい。
それにコボルト1匹だけではなく大量に押し寄せることになったら?
うーん、次から次へと課題が……!