八百二十六生目 角折
バーチカはいつものような感じでアノニマルースに送った。
しばらくは監禁されながらの治療だ。
なぜ凶暴化していたのかも事件性があるかもしれないし気になる。
洞窟からでたらミアが草陰から出てきてくれた。
「終わった……のですか? ってそれって!」
「うん、終わったよ」
私の手には立派な角がいくつか握られていた。
今切り取った生角片側1つ。
そして自然に抜けたり折れたりしたのだろう乾いた角たち。
あとは花とか毛とか葉とか木片とか得られるものは得て来た。
まあ見せるのはもちろんこの生角で大丈夫だ。
ミアも確信しているし。
「やったんですね……! よかった、帰ってこなかったらどうしようかと……!」
「まあ、本当にトラブルが何も起きなかったからね。本当に起きてたら念話しているから平気だよ」
「うう……こっちからもっと話しかければよかった……」
まあ待たされる側は不安だよね。
というわけでもう1つの待たされる側への道を急ごう。
「おおぉ……! こ、これは確かに木獣の!」
「村は、救われたのか!」
「よかったわねぇ、もう悩むことはないわぁ!」
処置したので二度と同個体に襲われないと言ったらもうお祭り騒ぎみたいに村人たちが寄ってたかって喜びだした。
はやいはやい!
既に昼間っから酒を飲もうとしているニンゲンもいる。
まてまてなんで食料より酒があるんだ。
……いやまあそうか。
毎日消化する食料と明るい時にしか開けない酒では消費速度はまったく違うよね。
「みなさん落ち着いてくださーい! まだ色々終わってません!」
「おお、そうじゃったそうじゃった」
「順番に片付けましょう。まずは獣害対策です」
私は村長と共に移動し村の畑あたりに来る。
そして角を高めの台座に動かないようにくくりつけた。
高めの台座は無かったので魔法でパパッと作った……土魔法"ゴーレム"だ。
さすがにもあまりに苦手過ぎてまともに出来なかったゴーレムづくりをハックに手伝ってもらった時に少しずつコツを掴んだのだ。
今は裏技を使えばこのような単なる土と金属材でちょっとしたものを作れる。
……ようは私の血液を含みつつ私が生んだ土が混ざればいいのだ。
文字通り血を分けたちょっとした台に光神術"ミラクルカラー"で着色。
目立つようにして美しく飾り立て上に角を固定し安定させる。
「こ、これは……?」
「獣避けです。このあたりをシメていた大型の魔物を倒したので、場が荒れる可能性が出てきました。ただ、この角はその大型魔物のもの、小型の魔物や獣はこれを見ただけで避けていくし、大型の賢い魔物は討伐されるリスクを背負って村に踏み込みたくなくなります」
大型というのはここらへんで出てくるような村の者たちにとって一般的なというカッコの内側に閉じた言葉つきだが。
村長さんは感涙までしている。
「こ、これがあれば村は守られる……!!」
「落ち着いたら狩人をどうにかして引き込んでください。まだこの角は未加工なのでこどもが石をなげたり風化による劣化が心配ですから、本格的な保存加工をお願いしますね」
「それはもちろん! 是非に!!」
ここはこれでよし。
……さっきも言ったが私の魔法は"ゴーレム"なんだよね。
金属のゴーレムと土のゴーレム2つで成り立っている。
彼らが相互作用で台座を中心に結界を生む予定だ。
角の保護と村の保護が行われる。
ただ……今は無理だ。
地下にエネルギーがないから。
その話をちゃんとしよう。
「というわけでカクカクシカジカ……」
しました。
「なるほど……その龍脈というものが、行き渡っていないのが原因だと……」
「ええ。本来は星から多く行き渡るはずなんですけれどね。星の表皮を巡ると言うより、星の表皮が一番先で、内側から大量に来るはずなので。生き物で言えば、龍脈を流れるのは血、私たちは皮膚の上に立っていて、本来なら心臓からたくさんくる、という感じでしょうか」
もちろんたとえなので星としては結構ちがうけれどざっくりこんな感じだ。
このままではどれだけやっても大した効果は見られないだろう。
「へえぇ、勉強になりますね」
「ええ、ワシもこの年になってから学ぶばかりで……それにしても、星の機嫌ならば、だいぶ厳しいのではないですかね?」
「まあ、はい。ただ、ちゃんと掛け合って見るのでそこは安心してください、ここの支配者と」
「な、なんと!? 領主様たちに!? いけませんぞ、危険です!」
「む……そうなんですか?」
よしききたかった話だ!
この感じならば村長から話してくれそうだ。
「ここの領主様たちは……正確には会ったことはありません。むしろ、全てを部下にやらせているようなのです。先代様の頃は良かったのですが……」
村長はつらつらと語ってくれた。




