八百二十五生目 討伐
ゼロエネミーは剣だ。
強力な武器であると同時に1つの枷でもある。
剣であることに縛りがあるとも言える。
盾や大盾も正確には巨大な刃として私達を守ってくれる。
だからこそ地面に刺して使えるわけだけれど。
そして剣ゼロエネミーは1つである。
今その枷から解き放たれる!
「ハッ!」
私が飛び上がると剣ゼロエネミーがついてくる。
さらにゼロエネミーは輝きを変化させた。
姿が水のように変化して行き……
2つに分かれる!
私の腕へと纏わりついて形をなしていく。
私が握ったところにちゃんと収まるように形が成っていく。
時間にすればほんのわずかな時。
形成されたのは私の腕を覆う手甲。
そこから伸びるのは刃。
私が身構えるとジャキンという金属音と共にゼロエネミーの刀身が生えたのだ。
レベルが7まで上がった獣拳士用の装備……
「いわゆる、パタ! パタモードだ!」
この武装ならば獣拳士としての力を存分に振るえる!
バーチカがイバラを角で払って突進してくるのに合わせかがむ。
一瞬視界から消えて上方へ拳を叩き込む。
「グモッ!?」
顎や首辺りに剣が刺さりふっ飛ばす。
いやまだだ。
獣拳士スキル!
[密着の心構え 相手との距離が離れそうになったとき、攻撃をすると相手に吸い付きながら迫れる]
これなかなかズルだと思うの。
拳を振るいながら私の体が自然に吹っ飛ぶバーチカに合わさるよう接近しつつ。
最接近と共に剣がヒット。
獣拳士の動きは基本的に相手を捉えるように動き回る。
相手と離れないというスキルのオンオフは大変だが慣れると気持ちの悪い挙動が出来る。
「ハァッ!」
相手が反撃に伸ばしてきた地面からの根たちに対して獣拳士武技。
[四足乱舞 拳装備の物を足に再現し舞うように蹴る]
普通は苦手なはずの足ワザ。
なにせ手が埋まっているから。
しかし獣拳士にそんなことは関係ない。
右手剣先を地面に突き立て曲芸のように身体を浮かす。
勢いよく回転し振るう足に光がありそれは両腕の剣ゼロエネミーによく似ていた。
この武技の特徴は繋ぎだ。
根たちを断ってそのまま着地すると同時にバーチカに殴り込み。
そう動きが止まらない武技。
"連牙"と同じようなものだ。
大した効能のない武技でも重ねられれば威力は断然上がる!
「まだまだ!」
獣拳士武技"連牙"で2連打して更に細かく腕を振るってさらに連撃を途切れないように打ち込んでいく。
[失われない獣爪 連続攻撃時にスタミナ消耗を軽減しヒット数によって回復する]
[終わらない獣爪 獣拳士武技を使った後通常攻撃にスキ無く繋がる。また通常攻撃は武技に繋がる]
獣拳士はその全てが相手に取っ組み合うように殴り続けることに傾いている。
苦し紛れの反撃にきた角のぶんまわしを"四足乱舞"で移動して避けた。
当然これは武技なのでそのまま蹴り込みで顔を殴る。
さてそろそろ仕上げだ。
かなり頑丈で耐えてくれたが"無敵"も効いてきてヘロヘロらしい。
獣拳士の心得は1つの大きなキメワザよりも息もつかせぬ連撃による圧倒。
1回では響いていないように見える岩を100回打ち抜いて砕く。
それがこの獣拳士武技!
[重連牙貫 相手のピンポイントを狙って目にも留まらぬ連撃を繰り出す。相手の装甲の影響を受けにくい]
まずは右腕を振るい。
同じところに左腕を振るい。
それを連続で繰り返す。
言葉にすれば簡単で短時間でぶち込むのはあまりに困難。
しかしそれをやるのがこの武器。
手甲剣ゼロエネミーが光を滑らかに返し輝く。
「ららららららっ!!」
「オオオオオォ……!!」
音がまるで太鼓の乱打音のような。
光に導かれるまま連打したバーチカの横腹に叩き込んだ!
「少し効きすぎたかな?」
「ごっ……がっ……!」
でも正気じゃない相手って相当苦痛与えないと倒れないからなあ。
今も"峰打ち"効果で生命力がミリしか残っていないバーチカがゆっくりとふらつき倒れるところ。
バタリと泡吹いて倒れ伏す。
状態が気絶になったのを観てからパパッと拘束する。
影魔法"スリーピング"で状態を眠りに変化させた。
気絶から眠りに変化させると深い眠りに入る。
攻撃しなきゃ起きてこない。
生命力を"ヒーリング"で癒やし倒した証明をギルド証の魔法で覚えさせる。
覚えさせるには長い間触れさせなくてはいけないので戦闘中に使えない。
基本的にそんな使わないけれどこれは便利だよ。
打ち倒したのを色々探られないで済む。
書いて説明するの……長いんだよね。
だがそれはそれとして村長さんや村人たちにわかりやすい討伐の証を持っていったほうが安心できるだろう。
……角の枝めっちゃ多いよね。




