八百二十四生目 装着
私達は先へ進んでいく。
幸い足跡のほかにもにおいのもとになるものが落ちていた。
「花……?」
「それ、村人の方が言っていた花に似ています! 木獣から生えていたそうです!」
「なるほど……ここで落としたのか」
小さな花だ。
身体を木に擦り付けた時に落ちたっぽいなあ。
花は独特なにおいがする……
においを追跡しよう。
足跡の追跡は限界があるもののにおいなら覚えればどこまでも追いかけられる。
さて……どこにいるかな?
特に今日は雨も降っていないしね。
「ミアさん、こっち!」
「えっ、それだけでわかったんですか!? すごい……」
「慣れだよ慣れ」
私はにおいで徐々に追い詰めていく。
この先にいるはずだ。
「はぁ、ふぅ……」
「大丈夫? 光魔法の……"ライフブレス"それと聖魔法"ピアースタミナ"。どう? 生命力を増して疲労を軽減してスタミナ強化してみたけれど」
「え!? あっ、ほんとうだ、息が楽……!」
「一応かなり弱めにかけておいたけれど、もし魔力過剰で苦しかったら教えて。熱くなったり、逆に息苦しくなったりするはずだから」
「そんなことが? 今のところ、大丈夫です!」
ミアに気を回しつつ私と共に進んでいく。
森の完全に中だ。
森に慣れてなければ一瞬で迷いそうな茂み。
おっと……洞窟だ。
ここが住処かな。
においは中に続いている。
「ミアは茂みに隠れて待機して。何かあったら……ええとそうだな」
『これで連絡して。どう? 聞こえている?』
『えっ!? これは……頭に声が直接来ている!?』
『心の中で念じた声が、相手に伝わるからね。呼んでくれればすぐに行くよ』
『はい、思うだけで、そう、伝わ、思うだけおもうだけで……あっ!』
『……今のもバッチリ聞こえていたよ。まあ、慣れだよ慣れ』
『す、すいません……』
『ううん、平気。とりあえず、進むよ』
私はミアに隠れてもらい単身洞窟へと乗り込む。
さあて今までの形跡からして凶暴そうだがなんとかはなりそうだ。
洞窟はこれといって面白そうなものはなし。
誰かの忘れ物とか隠しものがたまに見つかる程度。
明らかに古いので懐の亜空間にしまい込んでいく。
さてさて。
このまま進んでいけばどうやらいそうだ。
今は昼間だから寝ていてもおかしくない。
ならば不意打ちをしかけよう。
洞窟の奥。
その主は悠々と眠っていた。
周囲に敵になるような力の持ち主はいない。
きっともう少しで力がたまる。
こんな辺鄙なところにいなくて済む。
楽ではあったが枯れた土地は満足に食事もとれない。
故に常日頃飢えている。
最近襲っていた他種族の群れが住むところもとれるものを取り尽くした感覚がある。
だからこそ……もう少し。
もう少しどこかで空腹を満たせていたら。
そんな思いで眠っていたところに。
不意に飛び込んできた影に気づくのが遅れた。
「よし!」
「グモオオォォォ!!」
剣ゼロエネミーによるおはようダイレクトが成功したらしい。
溜めたパワー満タンでぶっ飛んで刺していた。
そりゃあそうという話ではあるが……
武器に殺気や生きている気配はない。
私は急いで木獣の元へ向かう。
大暴れでゼロエネミーを抜こうとしていた。
"観察"!
[バーチカ Lv.29 比較:とても弱い 状態:凶暴化]
[バーチカ 翠の大地によくいる木獣と呼ばれる大枠の1種。自然の植物と肉体が1つだ。バーチカは大きな角を持って振り回し、そこから木を伸ばして打ち付け敵を追い払うのだ]
[凶暴化 何らかの原因で正気を失う暴走をしている。慢性化しているので治療が必要]
「あちゃあ、凶暴化している。慢性とは……」
私はつぶやきながらその姿全体を見る。
草食っぽいのにニンゲンを殺すなんて珍しいとは思っていた。
見る限り目が濁っていてギョロギョロとおぞましい。
治すのはアノニマルースでするしかない。
今大事なのは鎮圧だ。
身体は見る限り普通の鹿に近い。
しかし生えている角は見る限り枝で尾はしなやかな茎に近い。
ゼロエネミーに指示して身体から引っこ抜いて……
出血のかわりに樹液みたいなものが飛び散った。
首周りに生えているのは葉と花かな?
あの花はさっき見たものと同じだ。
唾液をまきちらしこちらを見て殺意を滾らせるバーチカ。
"無敵"はぐっさり言ったけれど凶暴化を治すにはいたらず。
剣ゼロエネミーは手元に戻ってきた。
「よし! ゼロエネミーの新わざ試してみよう!」
早速飛びかかってきたバーチカが角で殴りかかるのをイバラでいなす。
集中していればそこは大丈夫。
ただ不意に枝が伸びるらしいからリーチには気をつけて。
「装着!」
剣ゼロエネミーがうなりだす!




