八百十七生目 木剣
私は女性の元へと駆けた。
そして素早くナイフを素早く抜く。
金属と木がぶつかるが木の詰まった重い音。
投げナイフ……ちゃんと木製!
今のでわかった。
この武器下手な金属より危険だ。
さらに前方へ踏み込むと向こうの山賊風の男が振りかぶっているのが見えた。
私が近づいているのに反応しきれていない。
というわけで勢いのまま蹴っ飛ばした!
よいせっ!
"峰打ち"入っているとはいえまとまな悲鳴すらあげられず大きく吹っ飛んで地面に転がされた。
うん衝撃を逃がすことなくまともに入ったらしい。
「え!? あ、あの?」
ちらりと"見透す眼"を使ってみたけれど本気で動揺して傷つき悲しんでいるだけだ。
演技の線はまあ最初から薄いとはいえちゃんとナシなようだ。
そうこうしつつテキパキと拘束してテキパキと武器とかを没収する。
こういう細かいところで稼いでおく。
フーム。武装のナイフとか軽い防具をみるにほとんど木製である。
こっちの大陸では木の価値が違うのかもしれない。
単なる木刀ではなく切れ味は悪いがちゃんと切れるようだ。
切れ味悪いのも手入れや作りの問題かな……
あとで詳しく見よう。
「とりあえずこっちは終わりました、それでお仲間は?」
「えっ、あれっ、早い!? そ、そうだ、わたし無理やり奴隷として運ばれて、わたしは逃げられたんだけれど、同じところにいた人が!」
「わかった。方角は?」
「えっと、確か、あっち……?」
なるほど無理やり逃げてきたから方角とかもわからない感じか。
その後私は周囲を駆け回ったものの道をいくつか細いのを見つけただけでどちらにどこへ彼女を乗せていた鳥車が走っていったかは特定できなかった。
追跡組が戻ってこないと見てさっさと逃げ出す手腕はなんともかんとも。
あと移動中に細かい話を聞いた。
奴隷はここの国でもばっちり違法だということ。
ただそれはそれとして違法奴隷が出回っていること。
また奴隷が違法になったのは比較的そんなに前ではないため奴隷に対しての忌避感持ちが少なく同時に古い奴隷もいてややこしいこと。
そう……奴隷は違法になったが新規奴隷が違法なのだ。
支配階級なんかは古くからの奴隷を持ち続けているのは珍しくないっぽい。
ただ彼女も別に知識人ではなくあくまで村娘なためところどころフワッとしていてあとで再度調べて分かったことが多いけどね。
結局山賊風の男たちを引き連れて襲われていた女性と一緒に近くの村へ転がり込むこととなった。
のだけれど。
「うわあ……なんだこれ」
「どうしました?」
「い、いやぁ……なんでも」
村の家というのは全体的に安く仕上げられたものがほとんど。
特にここは別に普通の農村であり……
ここに建っている材料が石と金属で構成されていること以外は普通だった。
「私の知っている村と違う……」
「どうされました?」
「い、いやあ……」
ちなみに彼女の村ではないらしい。
そして彼女はこの異様な光景を受け入れている。
……つまり一般的なのだ石と金属で出来上がった家が。
ちなみに精錬された石と金属たちの美しい建物という感じではない。
あくまで石も金属も使いやすいように加工して建てただけだ。
……そこにあったノコギリの刃の部分が木なのはもはや見逃しようがない。
木材と石の価値逆転世界……といったところなのだろうか。
この大陸は。
なんというか頭がバグる。
確かに他の大陸でもレアな木製の強力な品はあった。
ただそれは一部の例外だ。
ここまで価値が逆転しているとは。
そうこう見て回っていたら第一村人たち発見。
というか私と気絶した山賊風の男たちの群れとボロ布をまとった女性という異様さに向こうから複数人まとまってやってきた。
「そ、その……あなたたちは?」
「私は冒険者のローズ、こっちは違法奴隷商人……というか山賊、そして」
「あ、ミアと言います……売られかけましたところ、助けてくれたんです」
「そ、そうか……それは災難だったな……しかし、この村もそこまで余裕があるわけではなくてな……」
「ああ、違う違う。居座ったりする気はないですよ。街やこのあたりの地形を聞こうかと思って」
「それなら、なんとか」
露骨に安堵した空気が流れる。
しかし視線は私……の後ろに注がれっぱなしだった。
山賊たちももちろんなんだがそれよりも。
「……木製の台車……」
「……多分すごい高級……」
「……えらいひとなんじゃ……」
私が亜空間からこっそり取り出した台車。
それはしっかりしたつくりで隠れた仕掛けとして楽になるよう色々思い出した技術を適用しているが……
木でできていること自体に注目それていた。




