八百十三生目 報酬
「切れぬ腐れ縁でもないし、借りはさっさと返すほうがよいだろう。会わぬことを良い事に返済をかわし続ける未来が見えるしな」
「あーあ、これだから老害はダメだ。借用書なしの口約束の借金はだいたい逃げるのが相場だろ」
逃げる気だったんかい。
「――何がほしい?」
スイセンが問う。それは、もちろん。
ずっと前から最初に言うことは決めていた。
「ミューズの解放」
「無理」
「無理じゃね」
「無理だなぁ」
スイセンに断られるのは目に見えていたけどVVとシンシャまで言ってる。
無理の三連星に参加しなかったリュウが解説する。
「貴様が我が大河王国の国民に色々と吹き込んだことは耳に入っているが、あれより厄介なことを150回やる必要がある。やめた方がいい。枯れることを恐れ、捧げられる花であるために育てられた常識も技術も持たないただ美しい信徒の女に考え方を変えろと迫るのは酷だろう。少なくともスイセンは無理やり女を氷漬けにしているわけではない」
カルト宗教の正当化でしかない論理だけど私が今150人の世話ができる状況かは厳しい。無理に相手の考え方を変えるのは良くないことだ。できるだけ時間をかけて相手に納得してもらう必要がある。
ここはやっぱりすぐに出来ないことのようだ。
別に諦めるわけじゃないけど、今はまだ、だ。
「他には――」
次に私が要求するものは今必要なものだ。
金銭や美はいま私には必要のないから……
「神についての情報――強い人形を創り出す神に心当たりは?」
「……。う〜ん、僕の記録にはないね?他は?」
スイセンが他の神に話を振る。
「そもそも魔導人形が発達したのはここだと最近っしょ?最新トレンドには疎いんだよねアタシ、、、」
ここのところは小神が分かっていることなら私にも伝わってくる情報ではあるかな。
「じゃあ、宝石剣や古代神の遺物について聞いたことはある?」
ちょっと間があった。
「……。正直に言おうか。長く神をやっていると無駄に記録が積み上がっていくものだ。だから聞いたことはある。聞いたことはあるが現在の居場所について知っているわけじゃない。何も断言できないし、調べるとしても時間がかかる。喩えるなら、都会に引っ越して行った近所の何回か顔を見ただけの名前すら分からない知人を子供のころの希薄な記憶を頼りに数十万人のなかから探し出すようなものかな。更にいえば知人は現在もそこに住んでいる保証もなく、目立って捜索すれば身の危険もある」
より回りくどい言い方をしているが嘘は感じられない。
「なので答えは『答えられない』だ」
へぇ。知ってはいるんだ。
ほとんどダメ元で聞いてたからちょっとだけ驚いた。
「もっと分かりやすくてここで完結することを要求してくれないかな!!金とかさ!!」
「お金は別に困ってないし…」
ううむ。やっぱりじゃあこれだ。私の過去と、おそらくこれからの未来に繋がることがずっと気にかかっている。
「この空間――〝インターネット〟を使えるように出来ないかな」
「……。VV」
少しの無音のあと、スイセンがVVを呼んだ。
「ふんふん、なるほどー。ネコちゃんはそういうことね。ですが残念!」
VVのアバターがくるりと回る。
「これはインターネットじゃなくてローカルネットワークだよん。ゆくゆくは世界配信とかしたいけど、アタシだけじゃ作り切れないのよね。小神故の無力さってね」
結局ネットじゃん!! というかやっぱりこれ何らかの形で転生者が関わってるでしょ!!
「でもアタシとしてはあんまり気が進まないってぇか、そもそも借りたのはスイセンっちじゃん?」
VVの言うことはもっともだったが私に加勢したのは当のスイセンである。
「普段から僕から借りてる防壁分くらいローズオーラに教えてあげれば。ただの知識の伝達なんだし。僕はしばらくは利子とらないからさ」
「あんた自分が返済するのがめんどくさいからってさぁ……」
ちょっとVVは考えて、そして手を叩くエフェクトを表示さすた。
「よし!わかった!」
よし、要求が通った。
私も交渉術が上手くなったかな?
「招待するよ!アタシのワンダーランドR.A.C.2.へ。これVIPチケットね!」
えっ。
「貴様、自分から奴の巣に飛び込んでいくのか…」
とリュウは呆れ。
「やはり運とか間とか色々わるすぎないかの、お前さん」
とシンシャ。
いつの間にか私の手にはキラキラと金色に輝くカード。そこにはVV.I.P.と書かれていた。誤字ではない。
えっ、何がどうした。
「はっはっははは!! ヒーィ、腹がねじれる」
そしてスイセンはゲラゲラ笑っている。
「アタシは今は翠ちゃんとこで興行してるの、結局、そういう話だとここだけじゃどうしようもないじゃん?」
嫌な……嫌な感じがする!!!
「準備にちょっとかかるから…そうね、1ヶ月後くらいに遊びに来なよ。それで20人くらい入場できるからさ。ついでにいっぱい遊んでね! 楽しいよ!」
ええーーッ!
なんか!なんかやらかした!!




