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八百十生目 打合

この不思議チャット空間の能力が便利なので対価とするならば欲しかったところだけどこの4人目のVVでないと出来ないらしい。これはVVをぶん殴って貰う必要がある…??



3回犬を殴って便利能力を得たことがあるせいで思考が物騒になっている。これ以上運の悪さを更新したくない。


「犬ではない」


「? 誰だ今の」



【アカウント:スイセンのアイドル状態移行に伴い 時間拡張モードを解除します】



意識が浮上する。グダグダと顔のない神たちがバカをやり合っていたのは現実世界では数秒のことだ。


うっ、ちょっと頭が痛い。なんなめちゃくちゃ疲れてる……!めちゃくちゃ勉強したあとの感じだ!


これは少し後に知ることなのだが、時の動かないチャットシステムは中で時を止めている訳ではなく参加者の体感速度を遅くして思考速度を高めているらしい。一秒を10分に引き伸ばす体感時間の引き伸ばしと思考力の加速は、ふだん3並列処理を行っている私にとっても高負荷だったらしい。


つまり私ができるだけで他のひとがしたらとんでもないことになる。時間を使わない伝達システムは魅力的だが一部の神相手にしか使えないとなると――



スイセンは空間からゼロエネミーを取り出した。渡すところは相手に絶対見せるなと4柱全員一致で言っていたし、私も未来が予想できているので取り出すように見せかけている。


さぁて、剣神の反応はと。


「なるほど、それがお前の剣か。良い剣だ。その太刀筋を見せるがいい!」


う〜ん、私の剣だとバレてたら私にのほうにやっぱり手合わせをさせられるという意味で矛先が向いてたね、これ。



『打ち合わせどうりに。ゼロエネミーに打ち合いは任せること』



私がスイセンに念話を飛ばすとイヤイヤながら頷く……スタンプが飛んできた。デフォルメされたゆるキャラのようなものが頷いているスタンプだ。

念話でスタンプ?!スタンプ機能あるの?!なにこれ?!


念話はもっとこう精神と精神の超能力的な存在だと思っていたんだけど……スタンプ……


もちろん念話や記憶共有で映像や画像を送ることは今まであったんだけどスタンプ機能はさぁ……

いやもうツッコむまい。疲れてきた。


ゼロエネミーが動いた。スイセンではない。ゼロエネミーは意思ある剣だ。先に動いたのはゼロエネミーのように見えていたけれど、その動きは剣神の一撃を受け止めていた。


しかし受け止められていてもスイセン本人に足りないものがある。剣を使う技量だ。つまり何が起きたかというと剣が受け止めたはいいが、使い手に受け止める準備が何も出来ていなくて吹っ飛んだ。


あっちゃあ……


しかし吹っ飛んでいるスイセンを気にせずにゼロエネミーは剣神の一撃を受けた直後にしなり、伸び、カウンターを剣神に叩き込もうとする。


だが軽々と剣神はゼロエネミーのカウンターをいなしてみせる。


そのまま雪崩れるように打ち合いになる。お互いがお互いの剣戟を受け止め、いなし、カウンターをきめようとし――


ちなみにスイセンは振り回されている。

なんも出来ていない今のところ。


さすがに剣神、頭が剣だけど気づいた。


「そのような良い剣を使いこなせぬとは誇りがないと見える。剣が泣いているぞ」


泣いてはいないですね、別に。

ウザがってはいる。


「なるほど剣神殿は世情にうといと見られる!弱きものを剣で貫く時代は数千年も前に過ぎ去っている!人と交流するのに必要なのは会話だ。剣を抜くのすら数世紀ぶりになる。よもや錆び付いた腕を笑うような神だとは思わないが?」


――おお。


真顔で出任せを言い切って見せるところは非常に上手い。詭弁は失礼ながらバカに向かっては単純に説得力となる。


「ただ人の内に紛れるためには弱くあるべきだ。鋭い刃先を着きつければ人も獣も遠ざかる。武器は持ち腐れるべきものだ。いかなる剣も、魔法も、錆つかねばならない」


淀みのなく放たれる詭弁はスイセンの強みか。


「剣でありながら口を得、対話をすることを理解されているなら分かるだろう。必要なのは斬ることではなく、斬らざるを得ない時に斬ることだと。そうして僕が封印したこの剣を無理引きずり出しながら剣神殿は馬鹿にされるというのか?」 


そこでひと息ついて次の声はよく響いた。


「つまりさァ、僕は戦いが嫌いなんだ!!」


最後のはほとんど本音だ。

スイセンがスイセンの意思でゼロエネミーを振るった。

いい感じでゼロエネミーがそれっぽく動く。


少しづつ呼吸があってきた。だいたいゼロエネミーが譲歩している感じだけど。

その折り合いは剣神の目には『少しづつ昔のカンを取り戻している最中』に映るだろう。そうスイセンは振舞っている。


ゼロエネミーに振り回されなくなるということはスイセンが並行してやれることが増えるということだ。



ゼロエネミーに打ち合いを任せ、スイセンの周りに魔法が展開されていく。氷魔法だけではない。


さっきまでは使っていなかった雷の魔法をスイセンは剣神に向けて放った。

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