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百八十五生目 詠唱

「結局きたのはひとりだけかぁ……」


 コボルトとの話を一通り終えた。

 だがコボルト以外に現れた魔物はいなかった。

 癒やし手部隊、現在1名のみ。

 まさかこの群れにいるやつらはみんな使えないんじゃあという疑惑がわいてくる。


「すいません、私1人で……」

「いや、そこは謝らなくていいから、コボルトさんのせいじゃないから」


 犬耳を申し訳なさそうにたれているのがキュートだが集まらなかったことにコボルトは関係ない。

 なぜこんなに少ないのか……

 そう理由を考えているのを察してコボルトが顔を上げる。


「もしかしたら……みんな自分が回復魔法を使えるのを隠しているのかもしれません」

「隠している?」

「はい。回復魔法は使える者は限られていても誰もが攻撃を受ければ傷つきます。そうすると回復する側は回復することにつきっきりになったり、そのために自身の行動力(エネルギー)を温存しなくてはなりませんから、他の事がしづらくなります。

 あ、でも私は後ろにいてみんなを治す方が好きなので、大丈夫です!」

「あー、なるほど……」


 行動力の節約はとても大事だ。

 私も"無尽蔵の活力"があっていつでも行動力を治しつつ、消費率を軽減している。

 こういうのがない魔物にとって、行動力を治すにはよく食べて寝るしかない。


「癒やしの魔法はだいたい行動力(エネルギー)消費が大きいと聞きますし、私のもそこまで軽くありません。使う側への負担がそうして大きめだから、こき使われるのは嫌、と思う者が多くても仕方ないかと」

「え? そんなに消費って大きい?」

「ええ、やはり生命を癒やす魔法だからでしょうか……」


 幼い頃から使っているが、そんなに消費大きいかな?

 そう言えば母は回復に専念してその日の行動力を使い切って治すとか、していたような……

 私の適性みたいなものかな。


「ああそうそう、その癒やしの魔法なんだけれど、コボルトさんは何が出来るの?」

「あ、はい! 私は初級の傷癒やしと解毒、それと魔法ではないのですがスキルで行動力(エネルギー)を回復させます。効率は……少し悪いのですが」

「おお、なるほど」


 私の知らないスキルっぽい。

 行動力を治させるとは。


「その行動力(エネルギー)を治させるスキルは、自分のを分け与えるようなものなの?」

「あ、いえ。自分にも使えて生命力(いのち)行動力(エネルギー)へと変えます。見ていてください」


 そう言うとコボルトは小さく両腕を前に出して手のひらをこちらに向けてくる。

 手のひらに(エフェクト)が淡く灯りさらにシャワーのように粒子が私に飛んでくる。

 害意のない(エフェクト)が私に当たると確かに僅かずつながら活力が満ちてきた。


「すごいねこれは……あれ?」


 コボルトの顔に目を向けたら毛がなければ顔面蒼白と言えるほどにゲッソリと疲れている。

 "観察"!

 やばいグングン生命力減ってる!


「……ヒュー、これが、ヒュー、このスキルの……」


 ガクリ。

 コボルトは膝を折りそのまま仰向けに倒れた。

 あ、危ないなこれ!?


 すぐさま光魔法"ヒーリング"!

 ぶっ倒れてしまうほど使った割にそこまで行動力が増したわけではない。

 もっと使い込んで鍛えないと効率が悪すぎる。


 コボルトは単独で旅をしてきたというのは嘘ではないようでレベルが20ほどありよく目を配らせると肉厚なナイフのような物が隠してあった。

 ……"透視"したんだけれどね。

 ついつい前のヤク運び事件以来、隠していそうなものには敏感になってしまう。


 まあ金属のにおいはしたからそうかなとは思ったんだけれども。

 これにコボルトの爪先は切られていた。

 研ぐならともかく切るだなんて何かを持って取り扱う文化的な存在の証だ。


 少し治せば私の魔法力のおかげかすぐに全快した。

 コボルトの目が開く。


「えあ……すいません、まだ扱い切るのが難しくてまた倒れてしまいました。何時間くらい眠っていました?」

「いや、ほんの1分もないくらいですね。治したから」

「え? あ、あれ、そうなんですか! ありがとうございます。あなたも癒やしの魔法が使えたのですね! 苦労をおかけしました」


 言えない、"ヒーリング"だなんて私にとって消費がもはや微々たるものすぎてなんの苦労もせず癒やしたなんて。

 微妙に心地悪さから視線を外して下がり、コボルトに立つように促す。

 特に疑問に思わず素直に立ってくれた。


「ええっと、回復魔法の方も見せてもらって良いですか? ちょっと待ってね」


 回復魔法を使うにしても浅く傷があったほうがわかりやすい。

 適当に右前足で左腕をひっかく。

 カリカリカリカリ。

 かゆいわけではなかったけれどひっかいたらじんわりと体液が浮かんだ。


「よろしくお願いします」

「はい! ……『光よ、木漏れ日のように、癒やし給え』"ヒーリング"っと」


 光の球が発生し私の身体のまわりを飛ぶ。

 そうすると爪でひっかいたところが治った。

 ……え?


 今のは、声に出して詠唱?

 それに私の知っている"ヒーリング"とは違う。

 私の知っている"ヒーリング"は使っている間ジワジワと治していく淡い光が発生する魔法だ。


 ええっと、どうやらまだ私の知らない魔法の世界があるようだ。

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