八百六生目 侵食
「ふざけるなー!このブスー!!」
お分かりの通りこういう罵倒をしてくる人間……人間じゃないな神だった……は私は1人しか知らない。いつもの止まらないマシンガン罵倒と比べられると大人しいものだったが自業自得すぎて同情心も湧かないのもいつものことだった。
空間すら裂いてしまう大剣の、その大地を抉る神をも滅ぼす大技が振り下ろされたのはこの罵倒の一秒前で。その剣は私たちの鼻先30センチくらい前で止まっていた。
その30センチの厚みには透明な壁がぎっしり詰まっていて――いや、正確には幾重にも重ねられた1000枚の壁をぶち破って残った30枚の壁で辛うじて鼻先で剣戟が止まっているのだった。
「我が剣をも防ぐか。我が見込んだまではある。見せてもらおう、お前の力を!」
防がれた方は超ご機嫌である。
それに対する顔を……顔に咲いてる花を――真っ青に染めているスイセンはどんどんテンションと口数が落ちていた。
話は1時間前に遡る。
スイセンが剣の大神の神使をナンパして居場所がバレた。
おわり。
馬鹿なんじゃないかと思いました。まる。
大神に追われている最中に神使をナンパする性根の図太さが招いたことなので私はまったく関わりたくなかった。関わりたくなかったのだ。
剣の大神が街ごと――といっても家屋が2、3軒ほど吹き飛んで10軒ほどの屋根が剥がれた程度なので神案件としては被害は軽微だ――スイセンを吹き飛ばさなきゃ関わりに行かなかった。ほんとに勝手にやってほしい。
神案件のため私に緊急で依頼が来て調べる時間もなく現地にすっ飛んでいったらこれである。あのね、神なんだし隔離空間展開したり別の場所に移動して戦ってほしい。
そういうことに気を使っている神はそもそもの話、こういうことにならないとは思うけど。
少しでも周りに気をつけて欲しいが逃走のプロのスイセンはそれだと逃げてしまうそうだ。民には少し迷惑をかけることになるがそうしないといけなかったと。さっき剣の神がそんなこと言ってた。
イエを吹き飛ばされた人にとってはとんだ迷惑である。
神ってそういうとこあるよね。
依頼なのでとりあえず2柱の仲介に立とうとした私を巻き込むように剣が振り下ろされ――スイセンが私に向かって罵倒を叫んで今現在の時系列。
「射線に入ってくるな! 防壁の必要展開数が増えるだろこのブスバカボケカス!!」
正直私に向かって攻撃が飛んできたわけではなかったし避けられはしたものの守られた形になっている。どうしてだろう。
「君が死んだら君のシンパにボクが殺されるだろ!自分の影響力も分かってないのか! 関わってくんな!!」
「保身かい! ブレね~」
それ以上おしゃべりをしている暇はスイセンにはない。剣の神がスイセンを称える時間は過ぎてしまった。
「さぁ、受けてみよ!我が剣戟を!!」
「だから! はなしを! 聞いて!」
私の存在は今のところ剣神からガン無視である。
視界には入っているだろうに認識されていない。
「これだから神はクソ!! 死ね!!」
恨みの篭った短い叫びと共にスイセンが構える。その表情――ないけど――にはありありと『逃げたい』と描かれているのに、スイセンが逃げないのには理由があった。
現在、彼の胸部には呪いが張り付いている。紫の光がジワジワと彼の魂を侵食しているのが分かる。
※
こちらはたまに活動報告の絵を描いてるKがチルさんとのチャット中に身内ノリで「今ちょっと暇なので即興で書きます!」と感じに始まった1.5次創作スピンオフです。むてき本編描写と、キャラの口調、世界観設定のぶれがあります。
あと露骨に文体が違います。他人だからね!




