八百五生目 剣気
私は急いで手紙に書かれていた先へワープした。
よくよく念じとるとどうやら向こうの景色が思い浮かぶように作られていたらしい。
作りが丁寧だ。
ホルヴィロスには他のことを頼んでおいた。
というか大量の依頼たちの処理を。
受けるにしろ断るにしろさすがにあれは抱えきれない。
依頼先がバラバラっていうのも最悪だった。
知らないところばかりだし。
本当に世界中から依頼を出さないでほしい。
私がついた先には小さな社があった。
地元のニンゲンたちから少しずつだけ祈られているような。
通りがかりにちょっと願掛けされるような。
ささやかながら長年続いてきた雰囲気。
100……いや500年?
少なくとも私が思うよりも古くからあるかもしれない。
そんなにおいがする。
民族楽に使うような鐘の音が響く。
力が1つの場に集い光が形作られていく。
それは1つの生物として完全に形作られていくが成っていく。
光特有の幽体くささがない。
ちゃんとした生物として1歩を踏む。
四足で立派な蹄。
巨大な身体と大きな毛皮。
巻いたツノ。
それはまるで羊を思わせるような風貌。
ただこんな羊はいないという特徴的な風貌だ。
毛の量もすごい。
歩く神聖毛玉と言った風貌の神こそが……
「あ、あの……依頼した者です。ラ=カートと申します」
「ローズオーラです、よろしくおねがいしますラカートさん」
「あ、ラ=カート……いえ、はい」
ん? 何か間違えただろうか。
"観察"! ……ああ!
「ラ=カートさんでしたか、失礼しました」
「い、いえ!」
すごく小声でおとなしい雰囲気の神様だ……激レアだ。
吹けば飛ぶような雰囲気……これは戦いを止められるような神ではない。
今はうれしそうに耳がピコピコしている。
神たちはこっちがどうこうする前に文字は読めるものを使うし言葉もわかるものをねじこんでくることが多い。
私がこの能力組み合わせを思いつくように向こうは向こうでログの誰でも自然と理解できる言語を扱ったりとやってくるわけだ。
それにしても。
カーリはかなり腰が低く同時にせこせこしているというか不安そうに落ち着かないがラ=カートはふわふわしていてなんだかおとなしい性格のようだ。
今もむこうから切り出そうとはせずふわふわピコピコしていらっしゃる。
というわけで。
「その、依頼の件なのですが」
「ええー、今大変恐れていまして、武勇ある神様の話をお聞きし、ぜひこれは、機会、といったものではないかと思い、依頼させてもらいましたあ」
「ええ、その……相手はどこに?」
「ええ、今から導きますね〜」
羊の横長の虹彩が突然ぐるりと縦になる。
……森がざわめく。
いつの間に森が!?
さらに周囲が急激に色あせてひっくり返るように歪んでいく。
いつの間にか騒がしいこの世界に私ひとりだけが取り残される。
……念話が聞こえる。
『そろそろ場所に導かれるよ〜』
ざわざわと降り注ぐ音。
暖かくも入り込むような日差し。
私は応対する間も無く景色が移り変わっていく。
そこは1つの切り開かれた土地で。
そこには営みがあり。
そして……身体を蝕むほどの剣気。
私はそこで神話を見るハメになった……




