八百ニ生目 依頼
精神的に明晰夢を見させられるとあんまり休まった感覚がなくなってしまう。
つまり今私は非常にいらだちを得ながらカーリへと向かい合っていた。
まさしくあのニンゲンたちを鎮めるために必死こいた時の心のささくれそのまま。
それを見てカーリはどことなく嬉しそうに微笑んだ。
「うわぁ、纏うオーラが全然違う……戦場に立つ神そのものみたいなオーラですよ。これほどまでに見事なものは、早々ないでしょうね。交渉と暴力と殺害の境目が曖昧になり、まさしく通るのを邪魔する相手はまとめて撃ち抜くような気配ですね」
「褒めてます、貶してます……? とりあえず、連絡ではなく夢見の枕に立ったということは、もしかして」
「ええ、上司からの指示で……本当にそこは申し訳ないと……」
「いやあまあ、そっちも苦労しますね……」
なんだか少しだけ気が抜けてしまった。
申し訳無さ放出しそうなカーリはとは連絡をとれるように【住所】をしってるし【会話部屋】もつくってある。
まさかの互いに無言のままだが。
まあ作って1日。
明らかに互いとも仕事でフラフラである。
本来とられるはずの休日は蒸発した。
「もしや、そちらも今日1日?」
「ええ、こっちも今日1日。カーリさんもですか」
「フフフフ」
「ハハハ……それで、もしかして完了したからの呼び出しですか」
「ええ、まあ。どうしても上司は世界中で戦いが同時多発してしまうと、その制御で手一杯になってしまって……」
「制御……というと?」
「何せ、まあ戦場の神ですからね。軍と軍のぶつかりあいは全て戦場の神への供物なのです……ええと、何か食べる御方に説明する時は、お腹がいっぱいでもたとえ毒でもよりわけることすら難しくメチャクチャに口へ食事を突っ込まれ続けるようなもの、と説明すればいいと聞きましたね」
「う、うわぁ……」
思ったより大変なことになっていた。
そうか……神力で自分が爆発してしまう制御か。
とにかく必死に不要なものはどけたり保存したり何か別の形にしたり抑えるのに必死と。
……そうか。
もし強力な神に邪魔されたくなければこれほど狂ったことをすれば狙って防げてしまうのか。
しかも凄まじく足がつきにくい。
戦争自体がめくらましで大神の目をくらませてもやりたいことってなんなんだ……?
いやまあ本当は戦争がやりたい方で大神釘付けはたまたまかもしれないが。
そっちのほうが自然。
「その状態でも戦場に立たれ自ら捌いていくので、なかなかどうしてやはり大いなる神というのは、我々の常識でははかれないんですよね……」
「うんまあ……常識をはかれないのは今回すごく痛感したかな」
「アハハ、何があったかは深くはききませんが、心中はお察しします。それで、言伝なのですが……」
カーリはひと息ついてから話し出す。
「今回の件は、とても満足されたそうです。見事な解決、おめでとうございます。報酬のほうは、枕元に転送できているはずです。あっこっちではなく現実のですね。それと、話を他の神々に振ったらたいそう気になる者もいたらしく、もしかしたら他の方たちも、冒険者の小さき神を頼るかも、しれません」
「……うぇ!?」
聞いて理解して飲み込んで。
変な声が出た。
それだけで済んだ私を褒めてほしい。
「ほ、ほほ、他の神なにが!?」
「そ、そそ、そうなんです! 他の神々が、冒険者ギルドを通してあなに依頼をするんです! これぞ神々の試練……神の依頼! そのことを伝えなくてはならなくて」
「そん、な」
夢の中なのに喉が渇く。
依頼の内容の精査は?
取捨選択の自由は?
内容の難易度推定は?
推薦レベルは? 報酬は?
そもそもそれはまともな依頼なのか?
だ……誰も保証してくれない。
冒険者ギルドは最悪開けた瞬間彼方に飛ばされるか天罰が物理的にくだる。
「う、お、おおお……!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「おおおおぉおぉぉぉぉぉぉ…………!!」
私は深く身体をまるめ毛皮にうずくまった。
もうこれは……これは……
どうすればいいんだ。
神たちにルールをちゃんと守らせるしかあるまい…………
どうやって? うおおおおおごおおぉ……
その日はとりあえず私は困惑と疲れと削れた精神によりカーリとあんまり受け答えできなかった。
疲労困憊しているのがふたりに仕上がっただけである。
どうしようねこれ。
仕方ないので寝てまた起きる。
ちゃんと自宅で朝のようだ。
表から物音が聞こえる。
ホルヴィロスだろう。
私は言われた通り枕元を見てみる。
いくらかの金貨が込められた小袋……何処の国か不明なのと。
鞘に収められた美しい機能美の短剣。
それに変な石が2つ転がっていた。
さあてどれがとんでもない代物を引いてしまったのだろうか。




