七百九十七生目 距離
なんやかんと治療を終えた私は下手に動けなくなっていた。
各国から切り札扱いされたのだ。
特に冒険者組合から。
下手に消耗して動かれるよりすみっこで研究ごっこやってろとのこと。
アノニマルースの研究施設を使うのではかどること捗ること。
悪いが私単独ではもう解読や理解は無理なので私からの依頼として数の利と潤沢な施設の利をフル活用。
部屋の報告は『大蜂起の後処理問題のため』遅れているのであって多少出入りしても問題ない。いいね?
さてさてそんなライフを送っていたのだが。
私は……意外な相手からも依頼が来ることを知ってしまった。
とある日のこと。
その時はゆっくりと眠っていたのだが不意に私は飛び起きた。
「ん……?」
飛び起きた……と思ったのだけれど。
視界がブヨブヨと軽く揺れている。
寝ていた自室と場所が違う。
ここはどこかのお城みたいな。
しかし現実味が薄いというか妙に感覚がにぶいというか。
これはあれだ。
夢の世界だ。
うーんよし。
寝るぞーー!! 視界の端に誰か映ったけれど寝るぞ!!
「お、お待ちください、早い二度寝はせず話を聞いてください!」
「いやドリームワールドはなんか嫌な予感しかしないからだめ、もう一度寝れば起きれるはずだから」
「おやめください! 起きてください、攫おうとかそういう類のではありませんから! あ、布団かぶらないで! お話があるんです!」
「絶対面倒くさい、面倒くさい話だ……!」
私は断固拒否したがそれにより布団を引っ剥がされた。
かなしい。
それの姿は……
パッと見で目立つのは背負った砲。
普通設置して扱うサイズの砲台が背負われ普通に手で扱われるようになっている。
それを持つ細身の女性。
しかしその肢体はニンゲンのそれではない。
磨き抜かれた黒っぽい金属光沢。
指先に空いた穴。
それなのに滑らかで1つの生命体として成り立っている。
それなのに顔には片側が赤い美しい瞳でもう片方に歯車がハマっていた。
長い金属光沢を持つ髪が不自然なはずなのに違和感を覆い隠す。
それだけ奇抜な見た目なはずなのに最初の印象が苦労人だった。
それほどまでにありありと疲労が見えた顔と肩だ。
夢の中でここまで疲れ切った顔をする者は多分レアだろうなあ。
[カーリ Lv.38 比較:強い]
[カーリ 小神でありつつ戦場の神の神使。人々が生み出した射出する兵器の神。比較的新しく狭い概念のため他の武装神に比べ肩身が狭い]
あまりにもなんとも言えない"観察"結果を見てしまった。
多分彼女? は小神のなかでもそこそこ指折りに強いからこそ苦労を引き受けてるんだろうなと。
それに……戦場の神ゼクシオとかの神使なのか。
なるべく変に顔を変えないように対応する。
「……それで、おはなしとは?」
「はい、我が主が夢の枕に立って伝言せよとのことで、お呼びしました。ええと、戦場でのみきわめが済んだので、指示を出したいが冒険者の神は冒険者のしきたりがいるだろうと、というわけで翌日、近所の冒険者ギルドに指名依頼の確認をしてほしいそうです」
「そ、そうですか……冒険者の神……」
そんなものになった覚えはない。
とはいえこちらを尊重はしてくれるらしい。
断れるとは言っていない。
「その、拒否権とかは」
「ああ〜……そこらへんは、上司に確認をしてもらわないと……」
「ですよね……ところで、なんで夢見の枕に立つ、なんて複雑な連絡方法を?」
「ああ、上司からの指定で……【手紙】や【会話部屋】を知らないわけではないのですが、おそらく古来からのやり方への信頼度が高いのかと……」
ああどんどん顔の苦労度がましていく!
「その、交換しませんか? 【住所】とか、それか【会話部屋】を作るとか……」
「い、良いんですか……! あたし、あんまりそういう相手がいなくって、だからその……あたしでよければ」
流れで交換することになった。
私の身体と魂に【住所】が送られてきて紋様が腕に輝く。
これは設置された大型の弓……
バリスタだ。
【会話部屋】も作った。
というか作られて招待を受けた。
鍵部屋で名前が【ローカリー部屋】となっていた。
……えっと。
「この、部屋の名前って……」
「あっ、えと、あたし、カーリと言うんです、だから2柱合わせて……あ、名前すら教える前だったのに、ぶしつけで失礼でしたね……ごめいわくでしたね」
「あ、いえ! 別に大丈夫です……」
「ありがとうごさいます! 夢から覚めても連絡を取り合いましょうね!」
前脚をギュッと掴まれ金属の手でニギニギされた。
握手というか……肉球触りにきてない?
なんというか距離感の詰め方がおかしいタイプの神様だ……




