七百八十九生目 証明
アヅキはひとり遠巻きにいて肉串を食らっていた。
そして自然に目を光らす。
あれは職業病みたいなものだろう。
この調理はなんなのか。
あそこの酒はどういったものか。
さっきのんだ意味わからんお茶の味はなんなのか。
そして酔っ払いがゴミをポイ捨てしていないか。
廃棄する箇所は決められているのか。
まとめて清掃するルートはどのようになっているのか。
きっとそういうことを考えている顔になっている。
そんなアヅキのもとにひとりの巨大鬼がふらりとやってきた。
「隣、いいか?」
「ああ」
彼の名はワ・バメロ。
バメロ氏族として産まれて数十年。
若いときからやんちゃさと勇敢さを混ぜ合わせた子供時代を送り導かれるように正義感に目覚めていく。
あたたかい氏族に恵まれて成長し無事トランス。
巨大鬼はみな一定以上の強さを求める。
そしてトランスすれば大人という扱いだ。
トランスした後に成長した暁としてワという名をもらう。
名とはニンゲンの個人名とは感覚が違う。
役職だ。
ワは勇士という意味。
最も先頭にたち危険な者から氏族を守る戦士の名。
勇敢かつ正義の心のある者たちに贈られる役職だ。
そんなワ・バメロは浮かれない顔をしてアヅキの横に座った。
「……勝ったな」
「戦はな。その様子だと、聖戦のほうは?」
「……勝てなかった。敵のンメル族は、無駄口を叩かないやつだった。恐ろしく実直に強く、吾では太刀打ちできなかったな。相手に何度打ち込んでも、倒れる気配がなかった」
「そうか」
「吾はまだまだ弱いな……そう実感させられた。やはり小人たちは強いな。吾らと戦い方は違えど、あれもまた強さだろう。ンメル族を駆逐する勢いを見せたのだから」
「ならば見習えばいい。数の利なんて、結局自分以外いなければどうにもならないこと以外にも、学ぶことはたくさんあっただろう?」
「ああ、あの戦いは実に器用で、そして果敢に、なのに臆病なほどにも見えた。まったく面白いものだな」
アヅキとワ・バメロは朗らかに語り合う。
というより明らかにワ・バメロの話にアヅキが付き合っていた。
どうやらなんとも奇妙な……けれど確かな関係が芽生えていたらしい。
ダカシは宴のために積まれた木材から放たれる炎を立ちながら眺めていた。
周囲には複数テキトーに踊る者たち。
弦楽器をどこからかもってきたらしくおもしろおかしく弾いている。
みんな明らかに酒が入っていた。
そしてダカシの隣にはひとりの冒険者が立っていた
今回街まで急いで知らせてくれた面々のうちの冒険者戦士だ。
戦士……名をゼーブ。
ゼーブは農村でうまれた次男坊だった。
長男長女と産まれての次男坊なので農村的にはかなり余裕をもった労力で育つ。
ただ親の職をそのままつげる可能性はかなり低かった。
そのため元々興味のあった棒振りごっこから将来は自衛団にでもなろうかと考えていたところ。
冒険者という存在に出会い圧倒的な存在に憧れだす。
そして成長と共に本格的に武術を習い出す。
とはいえ本格的な道場に身を据える金もなく引退した冒険者に習う。
その冒険者は戦士だったため前衛で体を張る心得を手に入れられた。
そして戦いが始まる。
最初はソロでやっていたが鍛え上げるうちに頭角を表し同時にソロの危険性を把握。
チームを組むようになり今回もその場で組んだチームで来ていた。
「――でまあ、ほんと今回は運よくほとんど怪我無しで戦場を抜けれた。助かったよ」
「まあ、オレは何もしてないようなもんだけどな」
「それでも、そっちのチームの活躍が大きいって話は同じさ。感謝を受け取ってくれ!」
「う、お、おう」
パンと軽く背中を叩かれダカシは一瞬とまどう。
ただ硬くあたたかな手のひらを悪くは思わなかったらしい。
ダカシの顔は僅かな笑みが浮かんでいた。
「はぁー、それにしても今回は本当にヤバかった。街1つぶっ潰す行進なんてまともじゃない。もし戦う力がなかったら、または先にしれなかったら……1つ欠けるのを想像するだけで、ゾッとするよ。特に、彼女がいなかったら詰んでいたかもしれない」
「ローズのことか? まあ、ローズは多少規格外だからなあ」
「総大将すら倒して見せたんだっけか。現れたとき、なにかの魔物が空に浮いててびっくりしたけれど……」
あの説はご迷惑をおかけしました。
私の姿まで気が回っていなかった。
私が叫んだときロゼハリーっぽい姿だったのだ。
まあ理由はある。
骨折れている時は私の姿はそんなに変えられない。
痛いし。
そしてボコボコにされた後だったので気がぜんぜん回らなかった。
私が魔物だというのを伏せているのは余計な混乱を避けるためなのに……
結局知っている面々が方々に駆け回って証明はしてくれたが。ダカシとか。




