七百八十六生目 追撃
神力はたしかに人形にある。
ただおそらく限定神域展開に多く使ったのだろう。
タワーシールドが砕けた以上これ以上のびっくり隠しだまないはずだ。
……いや。観察したときの……
まさかな。
「もちろん、ここで大人しく捕縛されるならそれなりの待遇を約束するけれど、きっとキミは止まらないんだろう?」
「ヨく分かっていルようだな。左腕使用不能。しかシ、未だ他機能建材。腕が千切れたくらいで内部可動液が溢れ出しテ機能停止すル生物体と同じと見てもらってハ困る」
「つまり止める気はない……と。本当にそれは残念だよ」
当たり前だが総大将が戦争やめる宣言してくれるのが一番である。
しかしそれはしてくれない。
人形はゆらりと身体を動かし踏み込んでから一気に……
「……ン?」
おや。
人形の動きが構えで止まったと同時に私も耳に捉えた。
めちゃくちゃ聴覚いいんだな人形……
それは振動。
地震ではなく不規則に鳴り響く足音。
それはニンゲンでは鳴ることのない大きな地響き。
「バカな……なゼ戦線がここまで下がっテいる?」
「ああ、もう私達の戦いはほとんど終わりみたいだね。向こうも大局はついたかな」
「……盤面有利時に離脱。総指揮官の不在ニよる指揮能力の低下、およビ全体俯瞰視点の欠如、想定されたタ思考パターンの内低確率を再考、まさカ、戦場の広域化、それにともなう軍事行動の間延び、軍としてノ隊列崩壊が狙イ……!?」
「さすがだね」
私の肯定に人形は顔に表情が浮かばないのに……ただまぶたを閉じて額を指で突くだけで大きな感情表現をしてくれた。
それはもはや地獄を味わうかのような。
今や戦線は戦線をなしていたい。
"千里眼"で遠くを見てみればわかる。
聖戦によって刺激されたンメル族はバラバラに戦うように。
さらには聖戦は撤退することは駄目だと教えにはない。
そこをアヅキたちは突いた。
少しずつ少しずつ背後に敗走するよう下がりながら広げていった。
更に前線はニンゲンたちを蹂躪し兵器の破壊にいそしむ。
……そしてそのまま逃げていく。
ンメル族の中の吸収合併され肉盾扱いだった元他氏族たち。
彼らは折を見て大脱走をはかっていた。
何せ元々士気が高くないところに督戦隊で見張られていた。
それが解放されたと聞いても半信半疑だったろうが……
少し抜けて。
何も起こらずさらに抜けて。
もっと抜けて元々ンメル族だった者たちが慌てだした頃にはもう遅い。
部隊はバラバラである。
軍の大きな減衰をするのに誰も止められないのである。
隊列を組む軍魔法は効力を失い乱戦になる。
するとどうなるか。
ニンゲン側はたくさんの仕掛けも兵器も壁も残し。
さらに隊列を組んで軍魔法。
そして冒険者たちは軍団戦が苦手なだけで遊撃による各個撃破は決して苦手ではない。
今軍は食い荒らされ大きく開かれている。
突進力も保持力もない状態でだらだらと前方と後方どちらも戦闘を続ければどうなるか。
もはや数の利なんてなくて消耗と損失を抱えて肥大化していく姿のみだ。
さらにインカたち含む突撃隊があちこち虫食いにして強力な上位個体たちを横合いからボコボコにしているところだろう。
正直あとは自重で潰れる。
太陽はすっかりのぼりきっていた。
「なるほド……」
「じゃあ、そろそろ、終わらせよう」
「まだ……テはある!」
人形が跳んだ。
さらに残った腕から連続でビーム射撃!
私は軽くあぶられつつも転がるように避けてイバラと魔法で反撃。
さっきまでの命中重視と違って乱射だをしている……つまりこれはとっておきを隠すブラフか。
私は距離を……とらない。
結局ああいう行動を取る時は心理的に相手と距離を離したいがゆえだ。
私はレーザーを針鎧でギリギリ跳ねつつ高速で詰める。
向こうも高速で下がるがバックよりは前進のほうが速い。
一瞬とは言わないが追いつき人形の身体にイバラで組み付く。
そのまま投げようとしてイバラを焼き切られる。
でっかいビーム!?
ちぎれた肩から出したのか。
ただ今ので肩が赤熱し変形している。
「避けるカ」
「今のは本当に偶然!」
投げる角度が良かった。
投げ方向がミスしていてれば直撃が当たっていたかもしれない。
冷や汗を必死に押し隠しつつ私は人形が離れないように詰めていく。
爪で裂き2丁拳銃ビーストセージで攻め立てて。
武技"回転斬り"を鞭剣ゼロエネミーで決めれば人形の胸に深く入る。
後ろへ飛ばされた人形を追ってさらに攻め込んでいく。
やはり向こうの損失は痛かったらしい。
こちらが5手6手講じる間に向こうはその半分も返せればいい状態。
このまま企みを実行させず押し切る!




