七百八十五生目 破壊
「これガ仕上ゲ」
やはりこの1撃で戦局が決まると思っているのは私だけではないらしい。
人形も静かにそう呟いた。
表情のない静謐であまりに美しい中性的な顔だからこそより真剣味が増す。
私と相手。向き合う。
時間に直せばほんのわずかな時。
それでも激しい応酬がこのときだけは止んでいて。
代わりに互いに渦巻くは凶悪なほどのエネルギー。
しかし一瞬で収束する。
高度に練り上げ形になり暴威そのものとなる。
ほんの一瞬でも出遅れるのが惜しい。
故に両者同時に空を踏み抜いた。
私は"地魔牙砕"で大きな光牙と爪でグラハリーのサイズを乗せて全力で突撃。
向こうはというと。
その両腕を大きく旋回させながら……伸びる!
確かに今までも腕関節から長いヒモみたいなのを出して長くのばしていた。
今遠心力たっぷりに伸ばしきた腕も同じ。
ただし両腕には神力のタワーシールド。
光が渦を巻いて竜巻を生み出す。
それに私が……食いつく!
「ぐっ!」
やっぱ強い!
身体がバラバラに千切れそうなほどに全身が軋む。
痛みを通り越すとしびれや冷えなど感覚が狂ってくる。
ただ同時に手応えはある。
向こうは回転こちらは直線とベクトルの違いはあるものの互いに光が衝突していて。
どちらの勢いも削るように。
私の力は確実に刺さっている!
「弾けっ、ナイ!」
焦り声が竜巻の向こう側から聞こえる。
私はバラバラになりそうな身体に気合を入れて筋肉と骨を離れないようギュッと接続するかのように力を込める。
同時に加速。
今押し切れないとおそらく負ける。
私の勝利条件は遅延行動だ。
気絶でももらってその3秒前後で全速力による脱出されたら終わりだ。
この力がみんなに使われる。
軍に使われたら本当に全滅する。
気合い入れるんだ私!
「ぬ、ぬああぁぉ……!!」
よくこういう声を出していると女性が出す声じゃないとか女性がする顔じゃないとか言われるのだがめちゃくちゃ失礼である。
こちとら生きてるんじゃい!
逆に人形側は当然呼吸音ひとつせず顔色は変わることがない。
そのままだと中途半端で終わってしまう。
それはだめだ。
人形はここで止める。
私は他の準備しつつとにかく姿勢が崩れないように踏ん張る。
回転し衝撃を加えるというのは私の想像以上に姿勢が崩されそうになる。
体幹がブレたら最後直進という動きの性質上あまりに緩まりそのまま頭をぶん殴られて気絶させられる。
私は魔法で自身の回復や補強をしつつ相手にも向ける。
土魔法"ヘビィズン"!
「ン……!?」
これは対象を重くするという強化なのか弱体化なのかよくわからない魔法だ。
今回は弱体化として使用した。
つまり相手を不必要な重さにしたのだ。
……片方の盾だけ。
抵抗はされたがほぼ成功。
本体なら弾かれていたかも。
当然片方重くなるということは回転に対する比重が一気に変化する。
両方同じという前提でぶん回していたのだ。
おそらく人形は瞬時に判断して引き戻したり緩めたりを直し無理矢理継続してくるだろう。
しかし今回転が乱れた。
それが1番大事なこと。
「ガアアァ!!」
私は吠えながら突き進み竜巻のような力の渦を突き進んでいく。
ついに見えた本体の姿!
その無表情の顔に抑えきれない焦りが眼の奥に見えた。
だけどこれ以上は衝突の概念が邪魔する。
ハリケーンのような盾が私を弾き飛ばそうと回っていた。
タイミング。見計らって。
「今」
盾のほんの僅かな隙間。
高速回転する揺れた盾たちの中で揺れた神力。
神域維持のために気を回していてもどうしても出来るウィークポイント。
それが今きた。
"ダイヤモンドブラスト"ォー!!
背後に発射!
一気に追加加速。
この一瞬で大きくブレて私の体ごと潰れるんじゃないかという負荷。
あだだだだこれ絶対私に使いこなせないよ!
それでも使えるものは使うし届かせるものは届かせる。
それが今!
「いきなリ勢いガ!」
「ここだああああああぁぁぁ!!」
すれちがう。
腕を爪を振るう。
口を牙を刺して噛む。
そして貫いた。
私は地面まで降り立ち戦果を吐き出す。
長く太いヒモだ。
これは腕を接続していた部分で……
遅れて2つの落下音が聴こえた。
辺りの景色が解けるように元へ戻っていく。
同時にタワーシールドたちも砕けた。
相手の左腕が地面を転がる。
私は人形と向き合う。
人形も痛覚はないのか平然とこちらを見返してきた。
ただかなり人形が不利になったのは確か。
耐久力は少しずつ直しているようだがもはやあとは追撃戦だ。
人形からはほとんど神力を感じなくなっていた。




