七百七十九生目 神雷
『ああ、見つけた』
戦いは惨状になっていきどんどん戦線は後退していく。
『本当? どこ?』
個の力でぶつかっていた連合軍も広く浅く個々それぞれ戦っているせいで乱戦模様になりまばらで傷を避けるよう下がっていく。
『今イメージを共有する』
だからこそ。
『見えた』
潜伏していたダカシからの声が天啓のようだった。
私のに"以心伝心"のイメージ共有でダカシが遠くから双眼鏡で見つけた怪しい動きをするンメル族情報が送られてきた。
わかりやすいようにイメージ上に下矢印が書かれている。
『こいつ。それにここ。このあたり。あそこなんてこの状況で談笑とか疑えと言っているようなものだろ』
『貸しているスキルの調子はどう?』
『……正直めちゃくちゃ気持ちが悪い。相手の心理がおそろしくわかる。酔っぱらうってこんな気持ちなのか……?』
『うーん、まだダカシが慣れていないのと、相手が多いこと、それにダカシが想像以上に心理系のスキルに相性が良いのかも。私もそんなに使わないし』
"見透す眼"を"率いる者"で貸していた。
壁1枚透過して見えるという能力だがそれは物理だけではない。
心理の壁も透過して視える。
ダカシは相手の心理を探して異常な心理と行動を持つやつらを偵察してもらっていた。
私がやると人形への対応がおろそかになると却下された作戦だ。
しかもこのスキルあくまで脳裏に相手の心理が視えるだけだ。
ひどいことを言うと思考がまざる。
自分と他者を隔てる境界線がみえなくなるのだから。
わりと危ういスキルだがけれどあくまでスキルだ。
それはオートマである。
自動的に制御していく。
借り物であれ行き過ぎることはない。
私はイメージ共有とこっちが見ている景色を合わせる。
問題の相手……戦争に集中していない相手。
殺すか殺されるかを考えているのではない複数名。
なるほどなるほど。
彼等の装備をよく見てみるとあの金棒おかしいな?
それに"観察"したら危険スキルも……
目的をもってそうあれと用意された部隊。
彼等は……味方しか見ていない。
正確には単なる味方じゃない。
ンメル族は急に大きく取り込みだして膨れ上がった氏族だ。
それはまさしく強大な力で無理やり聖戦の拒否すら飲ませるほど有無を言わさない力。
まさしく膨れ上がった脂肪。
ならば歪みがあるはずだ。
歪みは軍の運用では致命的になる。
ならば彼等は抑える手を持っているわけだ。
……督戦隊だ。
督戦隊とは簡単に言えば味方を背後から殺す係である。
なんでそんなことをするかと言えば敗走兵や脱走兵それに軍を乱してしまう輩を殺すため。
つまり存在そのものが脅しだ。
そんなことをしなくてはいけないのはなぜかといえば単なる味方じゃないから。
士気が低かったり元捕虜だったりなんらかの信用できないリスクを抱えた味方に対して行われる。
わざわざ督戦隊が組まれているあたりやはり事前調査通りなわけだ。
あれ全てがンメル族だがンメル族ではない。
結局今前線で活躍しているやつらの多くは盾にしても惜しくない相手……
もちろん鍛え上げた元々のンメル族もまざってはいる。
そしてそんな味方たちを敵のような眼差しでみるもの。
どの味方が剪定され恐怖でしばれるか談笑するもの。
力だ。狂った力がンメル族を支配している。
さて。
見つかったなら話は早い。
あとはダイナミックエントリーしよう。
これまでのたまったもの。
ストレス。怒り。不満。
そして我慢を……解き放つ。
神力解放。
「……!? テき、しゅうゲ――」
「「ぐああぁーー!?」」
聖魔法"パニッシュメントアレンジ"。
空から降り注ぐ極光が狙い通り亜音速で巨大鬼たちに降り注ぐ。
ためにためて展開し神力まで使わないように気を回しつつ放った輝きはもはや落雷。
「なンて威力だ……データに無イ」
いまので多くの督戦隊が倒れた。
普通の"パニッシュメント"にこんな威力は存在しない。
そして感電するように身を震わせて麻痺しているなんてことは起こらない。
今回のアレンジは準備時間はたっぷりあったのでとにかくこだわりを込めた。
その場で適切な変化をさせたわけじゃない。
マニュアル操作というものの暴れ馬っぷりと乗りこなした時のえげつなさを両方体感した。
まず威力を上げた。
それは大前提だ。
私の不得意な威力を上げる方向だが最近は数に頼らずともなんとかする方法を編み出しつつある。
魔法の世界は深遠だ。
深みに行けば行くほどここは浅瀬だと思い知らされる。
今表の世界にある魔法というのは……あまりに使いやすく計算しやすくしたものだ。
計算ドリルかもしれない。




