七百七十八生目 信仰
戦うものよ、果敢であれ。
戦うものよ、残酷であれ。
戦うものよ、孤独であれ
それこそ聖戦なり。
巨大鬼たちは氏族が違えどこのことを胸に秘めている。
信仰と言っても良い。
おそらくずっと昔にあった苦しい魔王時代で築かれた命の繋がり。
彼等がなぜ大事かをわすれても残してきた彼等の理性。
古臭い因習でありながら彼等の根をきざすもの。
他者におかせぬもの。
だからこそ氏族を吸収合併繰り返すンメル族の聖戦廃止運動はおかしいし割と狂っていた。
それはまるで信仰を試されるような。
踏み絵で選別されたかのようなもの。
だからこそそのズレをダカシは探している。
アヅキたちの会話はアヅキの作戦や士気に関わっていた。
「聖戦、だ。それを俺は知らないし、全く理解できる気もしない。そもそも単独での戦いなどリスクを考えると避けて然るべきだ。それでもこだわる以上、それを最適解として組み込む。まともな集団戦にはならないが、お前らが求めているのはまともな集団戦ではなく、聖戦だろう」
「……ふ、フフ、フハハ、ハハハハハ!! まさか!! まさか貴様に、他種族に聖戦を説かれる日が来るとは!! そうだな!! 吾らは聖戦をするもの!! ならば聖戦を行わぬ、穢す相手に負けるどおりは、ない!!」
「だからうるさい」
アヅキが顔をしかめるもワ・バメロたちはすでに晴れやかな顔をしていた。
そして黒の旗はさらに強く振られる。
彼等が選んだ統一の色。
全てが混ざった色であり……聖戦を大事にした相手への恩義の色だった。
本当はもっと艶やかな黒色にしたかったらしい。
ただそんなに時間はないので間に合わせだ。
まさしくハリボテでなんとか1つの黒でつなぎ合わされた部隊。
彼等の中にこの黒色をあざ笑うものは少なくとも1晩でいなくなった。
歩んで対峙するは後方から近づいた形になるンメル族軍。
凄まじい威圧感だがもはや怯むことはなかった。
「貴様ら! 後方奇襲など卑怯なまねを!!」
「卑怯!? 言うことかいてお前たち
がいうか!?」
「「は、ははははははーー!!」」
「な、なんだ……?」
既に待ち構えていた後方軍たち。
こちらは多くがンメル族の中枢近くで訓練していた。
だからこそ突然笑い出す連合軍に不気味さを覚える。
ひとしきり腹を抱えて笑ったあとワ・バメロがずいと大きく前へ出た。
「何を勘違いしているかはしらないが、このワ・バメロ! 貴様らに聖戦を挑む! 朝日昇ると共に、戦いを始めよう!」
「何を……」
「我が氏族、ナンマの名において「さあさあ、吾こそはという戦士は私と「ココに聖戦を響かせる!!「ワシが「オレが「戦う「ンメル族、貴様らを」「倒す!!」」
「は?」
「あ?」
「な、なんだぁ!?」
凄まじい勢いで次々戦線布告していく。
その様子はまるで戦争の基礎なんてなくて。
アヅキがニヤリと笑みを浮かべた。
「誰がそっちのルールに従うと言った……」
アヅキのつぶやきは喧騒の中に潰える。
「「うおおおおーー!!」」
もはや前線は意味をなさない。
隊列など最初からなかった。
全員が全員我先にと目の前についたンメル族へ急襲し広がり分け入ったからだ。
「「はっ!?」」
一方軍に染まっていたンメル族は対応に遅れた。
前線と前線がぶつかりあいたがいに集団の力を押し付け合うのが集団戦闘であってこんな無茶苦茶な戦い方はそう……まるで……
「個人戦カ?」
人形は遠くの惨状を見てこぼした。
「なんだあれは、一瞬結託したのかと思ったが……なんのことはない、ニンゲン側との戦いのにおいにつられてきただけの集まりか」
「適当ニ処理せよ」
「はっ!」
奇襲としてはあまりに目立ちすぎて堂々とした行進。
潜在敵が今あらわになっただけ。
そのように処理しようとして。
「……可能性、極低。戦況上方修正」
わずかに引っかかる違和感を切り捨てるように人形は呟いた。
ニンゲン側軍の方。
巨大鬼が金棒を振り下ろすたびに壁が破壊されていく。
抵抗で放たれる兵器の火が大上段の1撃で踏み潰されていく。
あまりにも絶望的な光景。
先程までここは単なる平穏な町近くの平穏な平原。
それが今地獄の時代を再来させんとする火の勢いが上がっている!
「駄目だ! ここのラインを廃棄しろ! 下がれ、下がれ!」
「くっ、死ぬな! 死んだらなんで魔法かけてもらったかわからないぞ!」
「やべっ……3回目……調子乗りすぎた……」
どんどんと戦線が崩れ後退していく。
巨大鬼連合軍が形だけでも背後を突いたのにまるで崩れていない。
もしンメル族だけならとっくに終わっていただろう。
それは人形の支配力。
そしてンメル族が共に連れている従えた魔物たち。
普段なら1頭だけでも2つ名がつくような上位個体がゾロゾロと。
大蜂起の惨状を表していた。




