七百七十ニ生目 出陣
もう既に現場では大騒ぎだった。
アヅキとダカシはバメロ族に知らせに行ったのだが……
「ウオオオオ!! 恥知らずのンメル族に鉄槌を!!」
「「おお!!」」
「ウオオオオ!! 我等以外を頭に据えて、我が者顔のンメル族に終焉を!!」
「「おお!!」」
うわあ盛り上がっちゃってるよ。
「主、割と収集がつきません」
「お、ローズ来たか。ちょっとまずいことになってな、このままだと勝ち目のない戦いと分かってぶつかりにいってしまう」
「うーんここは……」
私は冷静に魔法を唱える。
そして空に向かって光を放ち……
爆音と共に閃光があたりに散った。
「「おおっ……おお!?」」
「注目ーー! 情報を伝えます!! おーちつーてー!!」
私は喉を絞るように光神術"サウンドウェーブ"と"エコーコレクト"で爆声を放ちつつ広い空間に響かせた。
「ぐううぅ! その話を聞けば、まさに今が戦いの時! どうして止める……」
それが私の説明を受けた後のバメロ族たちの反応だった。
そうなんだよね。
すでにバメロ族だけじゃないんだよね。
たくさんの族が集って音頭をあげていたのだ。
まだまだあちこちから寄ってくる気配すらある。
誰も彼もが高い殺意と金棒と鎧がセットだった。
いやあ士気が高いのはいい。
それはいいんだけれど!
「正直このまま正面からぶちこんでも、無駄死にだと思う……」
「……それでも吾らは戦う!」
おや? 思ったより反論がなかった。
つまりンメル族の脅威そのものの認識は正しいのか。
ただしくのないのは自分たちが屍になってでも聖戦というものを行い食い止めなくてはならないとしているところか。
「そもそも、もしかしてキミたちは集団戦そのものが初めてなのでは?」
「「…………」」
今度は深い唸り声が響く。
やっぱりそうだ。
巨大鬼はそもそも単独で多くの相手を打ち払うのが基礎というかそれこそ良しとしている部分がある。
ここに50を越える巨大鬼たちがいてそれでも氏族の代表であり多くの氏族で各々戦の準備しているという話をさっきアヅキたちから聞いた。
いや凄まじい。
どれだけンメル族にフラストレーションたまっているかがよく分かる。
ただそれじゃあだめなんだ。
生きて勝たねば意味がない。
即席の烏合の衆など秒で蹴散らされる。
むしろあの人形はこちらの巨大鬼が徒党を組むのは計算していたフシがある。
正直このまま流されるように挑むのはさすがに詰みだ。
むしろ力で従わされ肉壁扱いになるかもしれない。
「だがどうする!! それでは吾らはただ見逃せというのか!!」
「ワ・バメロさん落ち着いて。今からそこらへんを考える」
「ただ、言うほど俺らもアレだよな……別に軍で戦うのまったく慣れてないよな……」
「……ごもっとも」
そうなのだ。
私たちは冒険者。
軍人ではないのでじゃあ軍団の戦いってなんだよって今なっている。
頭を悩ましていると隣からこちらを見る視線が。
……アヅキ?
「軍ですか……まあ本物の軍としての動きは別でしょうが、群れを指示するくらいなら普段からやっていましたよ」
「あっそうか」
忘れていた。
アヅキは元々森の迷宮で大きな群れを率いていた。
そういえばそれ以外にも何度か飛行部隊として先頭に立っていたような。
私はアヅキの方を向く。
アヅキはかがやくほどの満面の笑みだった。
軍隊……いや群れでの動きはアヅキが教えることとなった。
私は邪魔しないようにダカシと共に備えをする。
ダカシは偵察で私は関係各所に連絡を飛ばしまくるハブ役。
その日は日が沈むまであっちこっちと移動し日が沈んでからは明日に備え些細なことも細かくやっていく。
食料の備蓄確認や防具の手入れなどわずかな差で生死が決まる要素を無視しない。
何よりもトラップだ。
まさか来るとわかっていて手をこまねいているわけにはいかない。
巨大鬼たちも酒はそこそこにねむりだす。
……いや普通に酒作ってるんだよね巨大鬼たち。
そしてあっという間にその時はやってくる。
『やばい、もう整列終わった!
想像よりも早いっ!! 軍が訓練されている!』
ダカシからの連絡。
それは日が登る直前のころだった。
1日3勤交代で見張るような現場でまさしく交代をする前の時間。
現場で働く者たちは疲労して起き上がった者たちはまだ肉体に火が灯っていない。
元より多数の準備をしていなければ……むしろしていても。
どうしてもフルパワーを振るえない時間帯。
――敵、出陣。
かなりの数が勢ぞろいして行脚していく。
最悪の展開……いきなりワープして街の真上から降ってくるようなパワープレイは避けられたようだ。
精巧な人形みたいなゴーレムのワープは術式が拙い部分もあったしこの量は不可能で間違いないだろう。




