七百七十一生目 小鳥
客室で私とギルドマスター。
向かい合いこんなときだからもはや茶や菓子もでない。
互いに状況がわかっているからだ。
「さて、話は聞いているぜ。少なくとも片方の依頼は終わったんだろう?」
「ええ。モンスターハウスのほうは。でも……もう片方も終わらせてきました」
「どうだった……? この騒ぎも、きっとお前さんも知ってるんだろう?」
「ええ。知っていることはまとめました」
私は見聞きしたことをなるべく正確に話す。
ただ神力に関しては伝えようがないので……
「――そして、肝心の強さですが少なくともその人形、私でないと相手にならないと判断しました」
「そこまでか……」
「冒険者や兵たちは雑兵たちと戦えますが、たくさんいる上位個体は選びれたニンゲンたちじゃないと無駄死にですし、何か準備をしているフシもありますからね」
「そもそも、なぜ巨大鬼が人形ゴーレムに引き連れられているのか、何もわからないな……しかし、よし、わからんばっかだが確かな情報が増してきた。なら領主の説得はできるはずだ」
大蜂起は兵たちがどれだけ働けるかでやはり防衛能力はかわる。
冒険者達だけでは様々な防衛施設の使用許可がおりない。
街道を封鎖し市民を避難させ炊き出しを行い門を閉め外壁の上にズラリと兵器を並べるのは全部兵士たちの役目であり許可されるものだからだ。
「問題は人員だな! おまえさんが飛び抜けているのはともかくとして、巨大鬼がその数攻めてこられて、さらに強い奴らも指折りよりもいて? いくら事前に塀を作っても、巨大鬼相手では限度があるぜ」
「しかも、人形はおそらくワープ系の魔法が使えます。立て籠もっても中にワープされたら棺桶ですね」
「うわ、マジかよ。頭痛くなってきたぞ……」
ギルドマスターの巨体が今はどことなく小さく見える。
というか物理的に書類を見るために丸まった上で頭に手をやって叩いているせいでちゃんと小さくなっていた。
負担をかけるね……
「とりあえず、アノニマルースの冒険者ギルドに連絡は?」
「む、そちらから転移してもらうことも可能、だったか。転移には転移をぶつけるのが1番だなあ」
裏でイタ吉に連絡しておこう。
軍を出すわけにはいかないけれど冒険者達ならガンガン乗り込んでくれるはず。
こういう時国境や街の許諾関係なく動ける力っていいよなあ。
それでもまだ準備万端とは言い難い。
強力な助っ人は出せるが向こうだって頭数と種類を揃えているんだから。
しかも明らかに軍人展開目的の。
少なくともあの小鳥は戦闘能力は薄かった。
ということは斥候だ。
もし今ふいに木の枝に留まられていて反応できる者はどれほどか。
本来は結界に弾かれるからこそだ。
訓練して結界抜けを得てしかも小さく戦闘能力が低ければ……
結界は害する強さには強いんだけれど無害の弱さにはとことんザル。
「そうそう、越殻者はご存知ですか?」
「エクシー……? いや知らんな」
「こっちの国で呼ばれだした名前で、存在の殻を超えて新たな存在となった者です。超常の力を持つものですね。あの人形からも同じ独特の力の気配を感じました」
「なんと……」
「なので同じような力を操れる私がぶつからないと、まず対処できません。それと私の親しい仲間なんですが、いくらか来られそうです。上位個体を倒すのに割り当ててくれれば動けるかと」
色々連絡してみたらみんな用事を早めに片付けてこっちに配備してくれるらしい。
ジャグナーは軍人なのであくまで待機だが裏方をしてくれるそうだ。
今回特にインカ兄さんと弟ハック
が来るのが大きい。
あのふたりはメチャクチャ強いからね。
インカ兄さんは物理的に戦闘能力が修行を重ねてとても高くなっているし。
弟ハックはメチャクチャ芸術を極めてモニュメントやら絵やらをしている傍ら魔法や繊細なカバー方面は特化して強い。
いちおう兄弟づけしているけれどなんやかんや三つ子である。
普段は違う場所にいてもなんとなく繋がっているかのような……
そして色んな意味で強い。
私よりもすごくストイックに生き抜いているほどだ。
きょうだいだけれどリスペクトしている。
2度目の生である私ではどこか届きにくいところに牙を伸ばす姿に。
彼等が来てくれるならなんやかんや安心だ。
戦争なんて死者がすくなきゃ少ないほどいいんだから。
ギルドマスターとはその後も話を詰めて一旦別れる。
とにかく時間がない。
軍を展開するにしても遺跡は近所だぞ。
隣とは言わないけれど間の土地は切り開かれていて鳥車なら1時間かかんない距離なのだ。
そこのスピード展開は私にはできない。
私は素早くやれることをやるだけだ。
というわけで空魔法"サモネッド"でアヅキのちかくにワープした。




