七百七十生目 人形
しばらく現場で情勢を調べる。
分かったことは思ったより軍勢が大きい。
いくらンメル族が巨大氏族だとしても雑兵数十で強兵が10以内だと思っていた。
ちなみにそれだけでも一斉に来られると大蜂起になりうる。
しかし実際はどうだ。
雑兵たちは数百はくだらない。
いくら雑兵は私達の相手にはならないとはいえ数が集まって攻め進めればどんな壁だって破壊して進めてしまう。
あと一般的に巨大鬼は強い。
種族として正面からぶつかるとニンゲンの上位互換だ。
1頭につき兵が何人いれば止められるやら……
そして上位兵だがこれが30はいる。
しかも稽古疲れしたら外に出て戦うものもいるし……
何が困るかってたくさんたくさん巨大鬼以外がいるのだ。
力とスキルで自身じゃない種族を飼い慣らし軍勢に加えているらしい。
パッとチェックしただけで100は越えていた。
種族は様々で元々この奥地に住んでいる強いやつらも多い。
麻痺毒を持つ蛇に地面から草花を生やす亀。
小型ながら素早い鳥に速度の速い狼。
さらには大型の牛。火を纏っていて見た目からして単独で鳥車超えでありちょっとした木製門だと単独でぶち抜きそうだ。
明らかに各々目的を持って集められている。
これは本当に危ない。
そして何より困らせたことが。
『主、強い奴らが守っていた奥、ずっと金属音が響いているとは思いましたが……』
『嘘、大きな鍛冶場……!?』
確かに彼等巨大鬼が金棒や防具を身に着けている時点で製鉄技術があるのだろうと想像はしていた。
しかしこんな兵器工場みたいに巨大な鍛冶場があるというのは話が別。
迷宮産の質のいい金属たちを加工している……
確かにニンゲンたちが使っていた場所である以上そこの文化を引用出来るのは強みか……
サイクロプスたちは種族的に生まれついてから鍛冶をやっていたはこっちはあくまで担当性らしい。
サイクロプスたちよりは下手ではあるものの数をたくさん作っている。
『しかし、巨大鬼たちのリーダーはどこだ? 全然それらしい気配が無いんだけれど』
ダカシの言う通り屋内にそれらしき影がない。
変だなあ……
絶対ここにいるはずなのに。
……!
『全員全力で息を潜めて!』
『は、はっ!』
『何?』
みんなはまだ気づいていないが……もう来る!
多分次第にみんなも気づいたのだろう。
空間のゆらぎを。
空間系の魔法……これは!
表の入り口近くにゆらぎが収束していく。
そして魔法反応が消えると同時に扉があいた。
ワープだ……
「我等の長が帰還されたぞ!!」
途端に城の中に響いていた音は消える。
代わりに姿を現したのは……
巨大鬼よりずっと小さい存在だった。
その風貌はまるでニンゲンのようだったがあれをニンゲンというのはニンゲンを見慣れていない者だけだろう。
確かに精巧だが貼り付けたような皮膚に体の隅に走るうっすら光るライン。
何より目だ。
そこには美しい黒の球体が埋まっていた。
瞳孔がない。
"観察"したいが私の感知が向こうの異様さを拾う。
多分だめだ。
詳細検知系カウンターを仕込んでる。
今バレたくはない……
その奇妙なニンゲンゴーレムは冷静にも巨大鬼に囲まれながらも静かに見回す。
気づかれたか……?
しかしこちらやアヅキそれにダカシのほうに視線を向けることはなく巨大鬼たちを見てうなずく。
「出迎エご苦労。軍備の方ハ?」
「ハッ、計画は最終段階、軍そのものはいつでも動かせるだ!」
「軍ハ、ということハ問題が?」
「問題というほどでもねえだが、想定以上に他氏族の抵抗が大きくて、実はついさっき3体ほどしばかれて帰って来たとか」
「……計画上のリスクとしテ問題ナイと判断。所詮雑兵の集まりが多少変わるダケ……造っていル物が完成したら、直ぐにでもまずは街ヲ落とす」
「ついにか……楽しみでさあ!」
「「ウオオオオ!!」」
話しながらそのゴーレムは歩いて鍛冶場まで歩む。
完全にその姿が扉の向こうに消えてやっとひと息つけた。
嘘だろうあいつ……神力を持っていた。
『今のって……』
『詳しい話は後、騒動が起きている間に脱出するよ』
『ええ、わかりました』
さっきまでの騒がしさとは質が変わってお祭り騒ぎのようだ。
それにしてもあれがンメル族の長……
なんとなくこれを知ったらまたバメロ族がひどくキレるのが目に浮かぶようだ。
私達はとりあえず帰還する。
アヅキとダカシはバメロ族に連絡を。
私は冒険者ギルドにどうなっているか訪ねにいった。
現場では既にひっくり返るような大騒ぎだ。
話がどうであれ無視できないと判断してくれたのだろう。
早速受付でギルドマスターに会う約束を取り付けて中へ。
ギルドマスターも飛ぶようにやってきてくれた。




