七百六十九生目 偵察
門の内側と外側ではまるで別世界だった。
見た目はぱっと変わっていないのに……
「うぐっ……凄い迫力だな。剣が使えない今、魔法だけで切り抜けられるかどうか」
「主、この先が問題の場所ですね? 確かこの空間は上位個体が本来住む場所ではないとか」
「う、うん。そのはず。というより天然のそういうところって迷宮ぐらいなんだ」
遺跡は地表としては特殊だけれど遺跡ほど特別ではない。
普通はよりただようエネルギーの濃い迷宮でなければここまでの場を作り出せない。
確かに魔物が多いとそれだけでエネルギーが濃く循環するけれど……
確かに毛にビリビリくる空気に含まれているエネルギー的にもしかしたらここに上位個体が住んでるかもという話になるなあ。
私達は歩みを止めずに進んでいく。
「……なあ、アノニマルースはともかくオレも何度か迷宮に潜ったことがあるが、ここまで空気がヒリつくものだったか?」
「正直、おかしいよね。まるで意図的に操作されているみたいだ」
「それもそうだろうな……主、人工的に空間を上位個体がいてもおかしくないように仕立てるメリットは思いつきますか?」
「そんなことが出来るという推測の上での話だけれど、場が上位個体の住むところになると、どんどん周囲の魔物が影響されるはず。より強い者だけが生き残り、そして強者たちですら次々強くなる、そしてより強固な軍団が出来上がる……?」
これだけ荒々しい空気ならば感化され狂化する魔物はどれだけでもいるはずだ。
成長速度もいいはず。
さらに強力なリーダースキルのあるものに率いられていれば余計にだ。
緊張しながら本丸の中に入ると底は大きく吹き抜けていた。
まあそりゃそうだよね。
外から見ても大樹がそびえ立っているし。
つまりはとっくに建物としての機能は壊れている。
ただだからこそ巨大鬼たちには都合がよかったらしい。
窮屈な小人サイズに合わせずに済む。
それにだいぶ新たに建築してあるらしい。
重要な文化財が!!
まあ彼等にとって住みやすくするのは散々見てきたから今更の話なんだけど。
何もかもがちぐはぐに巨大鬼サイズにさせられている中。
たくさんいる魔物たちに目を向けて……
「嘘だろ……」
ダカシ含む私達は唖然とした。
どいつもこいつもレベルが高い!
30ならまだいいほうで40すらいる。
ちなみに表で戦った巨大鬼のンメル族は10代でワ・バメロはレベル20だった。
それを考えると彼等がどれだけ厳しい環境に身を置いたかも察するにあまりある。
そして今もだ。
「セイヤッ!!」
「腰が弱いぞ!! どうした、もっと強く打ち込んでこい!!」
「グァッ!?」
あたり一面稽古所かな? と言いたくなるほど所狭しと巨大鬼たちが切り結んでいる。
見ている巨大鬼がいるあたり喧嘩ではなく稽古だ。
今ひとりふっ飛ばされて壁に叩きつけられ土煙の中に沈んだけど稽古だ。
そのあとおいうちをかけてその金棒を寝返り打ちながら返したのも稽古なのだろう。
ちょっと引くけど。
でもまああそこまで過激にやって急激に力をつけさせるというのならわからなくもない。
基礎鍛錬はもちろん大事だがじゃあ実践的な戦闘訓練は必要ないかと言えば経験を積んでレベルを上げる以上絶対にいる。
ここまで激しいと遠目から見ているだけなのにドキドキしてくるが。
「ふむ、まともに全員を相手にできはしませんね。それにあそこらへんの鬼どもは、異様な力を感じますし」
「確かに……もはや上位個体云々とかいう段階じゃないかも」
移動しながらアヅキが指す場所を物陰から覗き見る。
どうやら奥への道を塞ぐように立っている巨大鬼たちは姿が違う。
レベルは10代だが明らかにトランス済みだろう。
身長が5メートル代なのは変わらないけれど全身を頑丈そうな鋼が生えて覆っている。
まるでツノが変形して生えまくっているかのようだ。
恐ろしくゴツい。
"観察"でちゃんとトランス済みなのを見る。
そして何より感じるオーラがすごい。
ひしひしと強者だというのが伝わってくる。
「あの奥、回り込めそう?」
「では、少し空から偵察して参ります」
「ローズはそこで見張っててくれ。動きが多方面から分かったほうが、こういう時はやりやすい」
確かに一方からすると完全に死角になってしまって相手の位置がわからなくても……
もう片方からわかればだいぶわかりやすい。
私は"見透す眼"があるから余計に動きをつたえるのに向いていた。
念話を通して様子を伝える。
『こちら、相手たちに大きな動きはないよ』
『空から見てみるとやはり凄まじい荒れ具合ですね。抜け穴程度ならどこかにあるでしょう』
『思ったより巨大鬼が出入りしている。他の魔物すら力で従えているみたいだ』




