百八十一生目 正義
今私はいつものふたりの妖精たちと共に私のテントにいる。
彼らにも受信機リングを渡したら喜ばれた。
それぞれ元気な子が左腕、おとなしい子が右腕につけた。
「ええと、コレで良いのかな?」
「うんバッチリ」
「なんだか力がみなぎってくる気がする!」
気のせいだとは思うよ。
さて妖精たちにここへ来て貰ったのは他でもない。
「あの毛むくじゃら……ポロニアさまの話を聞かせてくれる?」
「わかりました。とは言っても私たちも知ることは他の魔物たちとは変わりないとは思いますけれどね」
「まあポロニアさまはみんな好きだったからナー!」
ポロニア。
巨大な魔獣で大人しいはずが私達の群れへ威嚇咆哮をした荒野の迷宮での人気者。
妖精たちが思い出すかのように視線を動かして顔を上げる。
「そう……有名になりはじめたのは結構昔。どこからともなく現れた魔物が噂で流れ出したんだ」
「見に行って、驚きました。その当時に暴れん坊で有名だった魔物たちから
1匹の弱い魔物を守っていたんですから」
捕食するのではなく、ただ弱いものいじめのために攻撃されていた魔物らしい。
「圧倒的な力で複数の相手を吹き飛ばし倒したんです。その弱い魔物を守りきる姿は私たちからはヒーローのようにも見えましたね」
「それだけじゃないんだ! 来る日も来る日も誰かを助け時には戦ってみんなから愛されていたんダー! もちろん悪さばかりする奴らからは、嫌われていたけれどな!」
「すごい……正義のヒーローみたいだ」
心からそう思う。
ニンゲンですら難しいのに野生生物がそのように動くとは。
むしろポロニアが良く言う『自然』ではないようにも思える。
妖精たちが語るポロニアの活躍は多岐に渡った。
どれもコレもが正義の行いに見えそして見返りも求めず去っていく。
崖から落ちてしまって挫いたら上まで戻して癒やしてくれる。
誰かが投げた悪意ある大岩から身を挺してかばってくれたり。
そのような活動は次第に相手にすら認められていった。
対立しないかどうかは別だったそうだが。
あと気になったのは食事とかトイレとかしているところを誰も見たことがないとのこと。
だから一部では聖なる聖霊説も出ていたらしい。
ようは良いおばけ。
まああの毛むくじゃらだしそう思われても仕方ないかも。
そうして活動しつづけでポロニアの名はアッという間に荒野の迷宮で知らぬモノはいなくなった。
あるものは賞賛しあるものは自らの動きを阻害され卑下したという。
ただ、荒野の迷宮が随分と過ごしやすい世界になったと語った。
「いやーポロニア様モテモテだったよね」
「あ、そうだったの?」
「……まあアンタはそういうのににぶそうだものね」
妖精たちのコントもはさみつつ。
「そんなにモテたの?」
「ええ、ポロニア様に寄り添いたいという魔物は多かったですね。だから噂ではわざとピンチになって助けをまった魔物もいたと聞きます」
「わかっていても、助けたんだろうなぁ、ポロニア様だし」
「まあね、ポロニア様だしね」
恐ろしいほどに圧倒的な信頼感。
そこまでの信頼感を築き上げた姿はあの何からも目を閉じて見ない姿からは想像がつかない。
「それが急にどうして今みたいに?」
「うーんわからないなぁ」
「確かに突然とポロニア様はいなくなりました。ただ何が原因かまでは……」
「そうなのか……いや、ありがとう。だいぶ参考になったよ」
妖精たちにリングはプレゼントして私は次々と話を聞くことにした。
リングそのものは1日に1回は数が増えるしドンドンプレゼントしても問題ない。
ただ聴ける話は……
「ほんとすごかった!」
「神さま!」
「ヒーロー!」
「かっこいいよね!」
ほとんど妖精たちとかわらなかった。
逆に言えば賞賛ばかりとも言える。
ここまで一貫して誉められる相手も珍しい。
このままではラチがあかないので聞く相手を大きく変えることにしよう。
というわけでやってきたのは赤蛇たちの巣。
彼らに聞いてみようという寸法だ。
「こんにちはー……うん?」
中に入ろうと声をかけたら中から話し声。
というより揉める声?
そういえば洞窟周りに蛇たちがいない。
「ちょうどよかった! 良いから来てくれ!」
「え?」
と思っているうちに器用に鼻先に私を無理矢理乗せた。
そのまままたヒュッと首が引っ込む。
どこまで高速移動するのかと思ったら尾が洞窟の奥まで続いてた。
本気を出したら数十メートル程度平気で伸びるんだな……いや100越えているのかな?
そんなことを考えている間にも私は赤蛇の隣に降ろされる。
洞窟内に響くのはその場にいる多くの蛇。蛇。蛇祭り。
「だから、私達だけではこれ以上食事を維持出来ないって!」
「そうは言ってももうコレ以上縄張りは広げれない!」
「やはり間引くしか……」
「お前が間引かれてろ! 一時しのぎにしかならない!」
「うわぁ……」
これは……問題発生時に来てしまったようだ。