七百六十七生目 聖戦
「冒険者の、あっ、我々たちの間では有名なんです、氏族同士の中がわるいっていうのが」
冒険者戦士のンメル族への問いに冒険者魔法使いが足した。
「ふむ……そのような風説があるのだな」
「半分あたりで半分はずれといったところだ。おそらく、我々が氏族同士で闘う姿を小人たちが何度も目撃したせいだろう。しかし、別に縄張り争いというわけでもないのだ」
ワ・バメロとバメロ族のみんな……ちなみに全員に6頭でうちふたりが子ども……が解説してくれた。
「確かに、多くの氏族同士そこまで仲が良い訳ではない。過剰な馴れ合いは、士気の低下や卑劣漢を生む原因となる。ただ、殺し合うほど悪いわけでもない。たまに互いの戦士で武を競い合い、より高めあっているのみだ」
「だがな、もう半分の当たっている部分……それがンメル族だ」
「ンメル族はひでえところだぞ。もちろん大氏族故、我らのような氏族は木っ端とも言えるほどの差があるだろう。しかし、やり方が酷い。誇りもなければ他氏族を力と卑劣さで吸収しようと企んでる。いくつもの氏族が被害にあい、もはや今、反ンメル族とンメル族での対立と言っても過言ではないぜ」
「はっきりいってさっきみたいな嫌がらせは日常茶飯事だ……毎日どこかの氏族が面倒な被害を受けている。まったく、なぜアイツラは自らの氏族をブクブク太らせることにしか興味がないのだ?」
それってもしかして……
私が考え込んでいる間にも冒険者たちは話を回した。
「なるほどンメル族……あの服と鎧のやつらか」
「危なかったね、あのンメル族に挑んでいたら、今頃私達囲まれて袋叩きだったよ」
「袋叩きといえば……そこの小人」
「あ、ローズです」
「ローズ、貴様は凄いな。あの切った張ったの活躍、まるでンメル族の族長以上のものを感じた。3名のンメル族をものの1分の間に一方的に勝っていたな」
「なっ!? この小人、そんなに強いのか!?」
「ああー、あれはすごかった……まるで強く見えなかったのに、いきなり足運びが変わったんだよな」
「やっぱり足運びとか違ったの? 私はあの強烈な魔力を瞬時に感じて鳥肌が立っちゃった。しかも魔法を連続で放つだなんて、高位魔術師よ」
「さらっとやったが、俺達の体が簡単に治ったのもだいぶおかしいからなぁ……補助魔法も多分彼女に多数かかっていたし、凄まじいよ」
「あの気配の動かし方こそキモだな。斥候やってる私の自信を無くす勢いで気配の強弱が揺れ動くし、そもそも声をかけられるまでどこにいたのかまったくわからなかった。戦闘中だからより気をはっていたのにもかかわらずだぞ?」
「なんか照れるな……」
わいのわいのあれがすごかったこれがすごかったと話してくれる。
違う違う。
話が逸れている。
「じゃなくて! 私の事よりンメル族のことを聴きたいです。そんなに大きな氏族ならば、統率する族長も凄いと思うのですが……その族長の情報はありますか?」
「フム、あいつの話はあまり気がすすまないが……まあ、言うなればンメル族の族長は他の氏族たちとはわけが違う。姿が我らより1つ上のものだからな」
「トランスしている、というわけですか」
「ただでさえ強い魔物なのに、さらにトランスを……!?」
「最近では、あの建物の中で指揮をとっているとかな。いい身分だ、あいつは勝手に我らの代表にでもなったつもりなのだろうか?」
うわぁ! 大蜂起前じゃん!
しかも指を指した先は城の本丸側。
つまりは奥地だ。
もしかしたら上位魔物がいるかもというクエストだったがどうやら本当にその傾向があるらしい。
まさかここで情報ゲットとは……
手早くみんなにこっちの推測をぶん投げる。
反応は三者三様だ。
冒険者たちは青い顔をして立ち上がった。
今の情報の重さが悪い意味でも理解できたからだ。
大蜂起は魔物との戦争だ。
しかも上位魔物たちと通常でもメチャクチャ強い魔物たちの集まり。
準備とか先手打ちをミスしただけでどんどん死者が重なる。
そしてワ・バメロたちを含むバメロ族は強く憤った。
「なんだと!! あいつめ!! 安念なる平和の敵だな!!」
「そうと決まったわけではない、が! 彼奴等の行動が散々目について鬱陶しかったのは事実! ここで叩き潰してやる!!」
「吾らは聖戦を好むもの。数で押して領土を広げてと、欲に肥えたンメル族はもはや濁った瞳しか無いと見える!! そんなことに、どれだけの死を重ねるつもりだ!! 吾らが小人を滅ぼす理由も、ンメル族にそのような力を貸す理由もなし!!」
盛り上がっているけれどまだ確定ではないからね!?
なんとかなだめすかして一旦落ち着いてもらう。
どうやらバメロ族としても許せないものではあったらしい……




