七百六十五生目 斬光
"峰打ち"しなければ斬れる。
ある意味はこの世の摂理だ。
ただ巨大鬼が持つ巨大な金属の塊たちをたたっ斬るのはもはや理不尽の領域だけど。
けれどまあ魔物たち自身の込められた生命力によるガード能力とか複雑な構造と金属の皮膚を持つという巨大鬼自身を斬るよりもずっと簡単なのは事実。
なのでまずは武装解除させてもらった。
当然コレは始まりだ。
手甲場に針鎧を作ってあるのでギュッと拳を握る。
なあによくよくみなきゃバレないバレない。
冒険者たちは今起こったことにびっくりしてこっちを見ながら固まっているし。
「え……え?」
「そらっ!」
ただそれだけじゃあ困る。
私は不埒な輩をのしたいだけで彼らに逃げと敗北の経験を積ませたいわけではないのだ。
なので大きくジャンプしてから顎を殴り込む。
もし3体の巨大鬼も現実逃避レベルの放心をしていなければなんとかなったかもしれない。
しかし私の拳はキレイに顎へ吸い込まれ。
スカイアッパーのように重く入った!
「ゴッ……!?」
もちろん"連重撃"で2回ヒット。
拳でも使える武技"波衝斬"でさらに拳圧の光を放って打ち上げて止まらず"連牙"。
さらに"叩きつけ"でフィニッシュ!
大上段からの1発が決まって完全に地面へ沈んだ。
1体が一瞬で目を回して倒れ伏しているのだから驚きなんてもんじゃないだろう。
ただ味方はそれではこまる。
「ほら! 早く!」
「あ、ああ……」
「なんという小人……!!」
「ぐっ、貴様ら何をやってる!! 踏み潰せ!!」
「うわああぁっ!? 来るぞ!!」
「切り裂かれる! 悪魔の刃だ!!」
残った2頭は剣ゼロエネミーが回転する勢いのままつっこむだけで恐れおののいている。
まあそりゃあ仕方ない。
もしかしたら自分たちもああなるのだから。
ただ巨大鬼を逃すほど遅いわけでもない。
突っつき切り裂き踊り回ることで2頭は踊るように追い払おうとしている。
そこに私が踏み込んで拳を振るうのだからもはや大騒ぎ。
冒険者たちは威勢はまだ削がれたままだけれど動き出している。
バメロ族とンメル族が金棒で殴り合っているところに向かったようだ。
ちゃんと乱入してきたンメル族に剣を向けているようでなにより。
「先程まで戦っていた小人たち……」
「ほう!! ワシに向かってくるか!! ワシはそこの3人とはわけが違うぞ!! そして、貴様らはそこの悪魔の剣を持った小人よりだいぶ弱いな!! いたぶってやろう!!」
「貴様!! 話が通じぬからと!!」
ただ何を言っているかわからなくても下卑た笑いを浮かべていれば冒険者たちも馬鹿にされているとわかるらしい。
みんな眉間にシワが寄った。
「あいつ、なんか腹立つな……」
「まさかの形だけど……協力してとっちめちゃおうよ」
「あの人メチャクチャ強いからね……なんとかなりそう」
私の方はというと冒険者としての力をちゃんと全力で叩きつけている。
足元を土魔法で岩槍によって貫き上げ浮いたところを蹴り込みマウントを取って倒れるまで殴っている。
もう片方も剣ゼロエネミーがザックザクにしていた。
武技"ズタ裂き"でえげつない出血量をしてもう勝手に倒れそう。
ゼロエネミーを殴ってもぐにゃりと変形して避けられてほとんど意味ないもんねえ。
冒険者たちはそれを見て再び前に出て刃を振るってくれている。
冒険者たちは一般的に7対3で死にそうなら引くと言われている。
ちなみに3側が死ぬ確率だ。
……うん当たり前だけど私がまいどまいど死にかけながら戦うのおかしくない?
そしてこっちがだいたい終わった頃向こうでは一気に戦局が動き出した。
こいつらとは違うと言うだけあって絡んできたンメル族のひとりは土魔法を放っていた。
石をたくさん降らされるだけで頭が急所であるニンゲンは当然危険にさらされる。
ただそこは巨人鬼のもう片方バメロ族がどうにかした。
ニンゲンにとって落石でも巨大鬼からしたら同等の高さ来る砂利だ。
身体のサイズと頑丈さを利用して追い払う。
「今だ小人の戦士たちよ!! 果敢なる勇猛さをこの卑劣漢に見せつけるのだ!!」
「助かる! 今だっ、うおおぉーっ!」
「ぬうっ!?」
追い払おうと蹴り込んだ足は魔法使いの雷撃によって食い止められて。
金棒でバメロ族を妨害しようとしたら指を斥候が弓で射抜き手元を狂わせる。
もうひとりが戦士にたっぷりと魔力を送った。補助魔法だ。
大したことのない1撃でも重なれば話は別で。
大きく振りかぶりながら走る戦士の剣に光が宿る。
強烈な光を携えたそれを無防備なンメル族の脚へと叩き込んだ!
光の残像が強烈に脚に刻まれて血が吹き出した!




