七百六十四生目 斬撃
戦闘音のする方へ。
巨大鬼たちはその巨体ゆえに普段は非常に温厚な種族だ。
ただ同時にスイッチが入ると手のひら返すかのように凶暴となる。
まあニンゲンっぽさはあるよね。
ニンゲンよりもやや極端だが。
普段は肩に小鳥とか乗っけてるのにいざ挑まれたら誇りをかけてあたり一面めちゃくちゃにするまで暴れるらしい。
そんな巨大鬼たちだけれど戦闘のところに近づいてみたら噂が明らかになった。
どうやら冒険者4名と巨大鬼1頭が戦闘しているらしい。
遠目から見ても凄まじい大立ち回りだ。
飛びついてきたニンゲンを丸太のような脚で吹き飛ばし迫りくる魔法の炎を金棒で地面ごと叩き潰す。
迫りくる剣の刃を皮膚と筋肉で受けてから暴れるように振り払った。
遠くから見てもダイナミック!
背後から斥候職に首筋を狙われたが振り向きざまに頭を刃とかち合わせて角が金属音を鳴り響かせる。
「どうした!! ここまで来て吾に挑む小人たちよ!! この程度か!!」
「なんて強さだ……! だが!」
「通用していないわけじゃないぞ! 向こうも大技を当てられていない!」
「ほら! かかってこんかい!」
巨大鬼とニンゲンたちの会話は通じているわけじゃないのに互いにやいのやいの言い合っている。
まさしく剣を通じて理解し合っている状態だ。
巨大な金棒を避けて剣を腕で受けてとやりあうと頭に血がのぼるからね。
互いの戦力はいい具合にシーソーバランスだ。
後はどちらかが大きく崩れたら一気に決まるかのようなハラハラとした展開。
冒険者たちは1撃大きく入ったら間違いなく沈むし巨大鬼も急所足の筋をやられたら戦力は大幅に落ちる。
だがそれは思っていなかった形でバランスが崩れた。
「ふむ、苦戦しているようだな坊。小人とはいえ数の差は埋めがたいか? どれ、ワシが軽くもんでやろう」
なんと乱入者である。
しかも同氏族ではない。
完全に別の氏族……ものすごいニヤニヤしているのだけはわかった。
これには冒険者だけじゃなく戦っていた巨大鬼も驚きを隠せない。
「馬鹿な!! ンメル族の!! 貴様、他氏族の聖なる戦いに割り込むなど、恥すら売り払ったか!!」
「やべえ! 情報と違う、鬼がリンクした!」
「なんか様子がおかしくない!? 攻撃が止んだ!」
当然戦闘どころではなくなる。
ただしそれで乱入者の動きが止まるわけではない。
「ほ! 青い青い! 小人などまとめて叩き潰せば良い!」
そのスキを乱入者は突くように金棒を振り下ろす。
しかしンメル族と呼ばれた金棒は冒険者に届くことはなかった。
先に戦っていた巨大鬼が横から金棒ではじきギリギリズラしたの。
「……何をする坊!! 血迷ったか!!」
「血迷ったのは貴様だンメル族の!! 吾の戦い、邪魔をするのは許さん!!」
「ふ……ワシに手を上げたな? おい!! バメロ族が攻めてきたぞ!!」
「なっ!?」
「へへへ……」
「ハハハ……」
「フン……」
ぞろぞろと3名も巨大鬼たちが来た。
ンメル族という方のやつだ。
つまりはきっかけづくりか……
チンピラみたいな族の方が攻めるきっかけづくりを考えていたわけか。
さてと。
私はニンゲン風の姿をとる。
こっそりと近づき。
「4、4頭!? どうすれば……」
「逃げるしか!」
「おーい! もしかしてリンクチェインした?」
遠くから声をかけた。
リンクとかチェインとかリンクチェインって言うのは冒険者の言う多数に絡まれる現象だ。
本来なら勝てる状況に持っていくのが冒険者だが不意に魔物が漁夫の利を取りに来る。
それを倒せれば良いんだがだいたい厳しい。
なわけで。
「そうだ! キミも逃げたほうがいい!」
「オレたちも逃げる!」
その言葉が聞きたかった。
横槍は冒険者マナー違反というかルール違反にすらなりうるけれど。
許諾された手助けならばオッケーだ。
「じゃああなた達はそこの1頭を。私はあとから来た4頭をなぎ倒す!」
「なっ!? 無茶な!?」
「む、さらなる小人……状況がややこしく……」
「ほう、これは良い! 獲物が増えた! お前たち、やれ!!」
私は守るように最前線に躍り出る。
最初の乱入者は未だバメロ族というらしい正義感ある巨大鬼と金棒を交わしていた。
舌なめずりするように武器を振り下ろしてくる3つの巨頭。
よし……『冒険者』としての本気を出そう。
使える手は限られるけれど全力で当たる。
私は剣ゼロエネミーをぶん投げる。
「そんなもの――」
「――"峰打ち"解除」
知ってるだろうか。
けんはとてもきれあじがするどい。
「「は!?」」
金属の武器たちに幾重もの細い線が走る。
ごとりという音と共に金属武器たちがバラバラになる。
うーん剣ゼロエネミーくんハチャメチャに喜んでいる。




