七百六十三生目 巨大
城の近く。
城下町を抜けて見上げるほどの大樹と城がそびえ立つ場所。
まずはお堀を越えなくてはならないけれどね。
お堀の水は本来の役目なんてなかったようにもはや天然の池として機能している。
立派に深く掘られた水はお世辞にもきれいと言えない。
ちなみに正面橋は落ちているので使えないわけだ。
まっすぐ飛んでも良いけれど……
なんかいい感じにあちこちから木の枝が伸びている。
ワープしたら? という無粋な話は置いといて。
元は侵入者避けに生えていた木たちは健康にすくすく育って自由に子孫繁栄をして絡み合い太くなり増えて今や乗っても平気なところがいくつか。
いやまあニンゲンが乗ったら危ういところがほとんどだけれど。
それに飛びたくない理由はもう1つある。
「よし、今度はあっちにいこうぜ!」
「待ってよ、ここだって危険なんだから!」
「大丈夫だろ! 洞窟に潜るよりだいぶ安全だぜ!」
今も3人組が私に気づかず通り過ぎていった。
これである。
当たり前だけど遺跡には冒険者たちがモリモリいるのだ。
彼等はこれからネズミ型の魔物を追いかけて戦ったり小鳥の魔物に逃げられたり牙の鋭い魔物たちに追いかけ回されたりして初心を本番で学ぶのだ。
うんうん初いかな初いかな。
冒険者にとって依頼をこなすのは大事だがそれ以上に普段からの野戦闘とかで実力つける地道な鍛錬が大事だ。
魔物たちもそんな冒険者たちを返り討ちにして良いものドロップしないか狙っているしね。
適者生存である。
まあ私は初心者たちに気配すら感じ取られるほど衰えているつもりはない。
ただ空を飛ぶと障害物がなくなる。
ワープは光が出てしまう。
まあ目立つんだよね。
できなくはないとリスクを避けたいは両立する。
イバラなら既にロープのように見せたり草魔法のように見せかける術はずっとやってきているし。
ということで。
「それっ!」
イバラは問題なく私の頭上にある木の枝へ結びついた。
スイッと問題なく身体を浮かせて次の枝へ。
いやあ……こういうのは楽しいよね!
私の……私の中で何が違うのかはわからないけれどこっちの移動方法は楽しい。
やはり安定感の差かな。
間接的に設置しているのは大きい。
「よって」
調子にのって枝の上に乗ったり。
さて堀はあと僅かだ。
実はこの堀自体が冒険者の選別になっているのでは?
橋があったらうっかり初心者が乗り込んで死にかける目にあっていてもおかしくはない。
ここを水を抜くなり木を渡るなり直接橋かけるなりできるやつじゃないと向こうにいけないのは良かったのかも。
あっという間に枝を渡りきりくるりと回って着地。
はい到着!
思ったより揉めなかったよ。
そのままそそくさと外壁の内側へ行くために道を進んでいく。
道中はただっぴろく何も無い。
本来はここにたくさんの障害を置いて布陣を組むのだろうか。
それとも上から罠のように矢や石を降らすのか……
色々考えられることはあるが身を隠す場所が無さすぎて不安ということだ。
ただ逆に言えばここでは他の魔物もうろついていない。
魔物がいるのはこの先……地面から低い音が鳴り響くところからだろう。
私がその付近までこそこそと行くと姿が見えた。
遠くまで響く足音。
2足でそそり立つ巨大な姿。
もちろんニンゲンではない。
それよりも大きな存在だ。
巨大鬼である。
ちなみにオーガではない。
オーガはニンゲンのトランス先の1つなのでしかるべき機関からおこられる。
ジャンルとしてはサイクロプスとかになる。
ただ目は2つあるし立派な角も生えている。
彼等のような巨大鬼たちは5メートル以上の肉体を誇りつつ何人かで集まって氏族みたいなのを作って暮らしていると聞いていたが事実らしい。
パッと空に視界を飛ばし見た感じ3箇所に風貌が別れた巨大鬼が集まっている。
つまり奥に行けばさらにたくさんか。
距離は近めだが互いに干渉しないようにギロリと目を走らせていた。
あんまり仲が良くないというのも聞いた通り……
ただこういう氏族たちってたまにとんでもない才能持ちが現れてあたりの氏族をまとめあげてしまうんだとか。
するとそのまま巨大な勢力となってニンゲン界に殴り込むこともある。
集落を作ったり氏族を作ったり群れを作ったり……
そういう魔物たちの特有の一斉蜂起こそ街が緊急依頼だらけになる魔物大蜂起である。
魔物たちが世界のバランスがくるってたまたま大量発生し村々を無秩序に飲み込む大氾濫とどっちがマシかは場合による……
まあともかく。
音を聞く限りココにも誰かがちゃんと来ているようだ。
人気だなあ。
ちょっと戦闘音に耳を傾けつつそちらへと寄ってみよう。




