百八十生目 装置
「ふう……こんなものね」
「おお! すごいねさすがユウレン!」
テントの中にはユウレンと大量の骸骨たち。
ものを運び材料を現地で加工して完品を今目の前で積み上げて行っている。
金属加工そのものはまだ十分な火種を確保出来ないので九尾家にお世話になっている。
あそこは開発に必要ならば何だって揃っているな……
骸骨たちの移動は特定の時間を目安に私が空魔法"ゲートポータル"で移動させていた。
意外に便利な部分が分かってきたかもしれない。
今の移動で出来た代物の数はざっと数えて……ええと……
(56こだよ、さすがにわかるでしょ?)
ぐぬぬアインス、私だってあとちょっとで数えれたから!
このペースで量産できるならば数日中に全員に行き渡りそうだ。
さて、早速誰かにつけてもらおう。
咥えてテントから出たらちょうどハックが通りがかった。
よし。
「ハック、これつけてみてー」
「どれどれ? あ、これ前にお姉ちゃんが言っていたやつ?」
「そう」
ハックたちにも機械のことは話してある。
なのでつけるとだいたいどうなるかもわかっているため少しドキドキとしている様子。
私も完成品の稼働状態はつけたことがない。
リングは身体のどこでもつけれれば良いらしい。
「じゃあ尻尾で!」
「え、あえて?」
「なんかそこが良いかなって!」
リングは魔法技術である程度ならば勝手に伸び縮みする。
金属なのに不思議なことだがニンゲンの世界では自動サイズ合わせは常識的な術式らしい。
私の前世に持っていったら色々ひっくり返る魔法だ……
尾に通してあげると適度なところでリングが縮み挟まった。
ただこれだけでは起動しない。
「ハック、エネルギーを流し込む感じではさまった所に集中してみて」
「わかった! う〜ん……!」
リングが淡く光ってすぐに消えた。
これでオン! らしい。
さてハックの感想は……
「おお! おお? なんだろう、なんだかかしこくなった気がする!」
「まあ、気がする程度だとは思うよ」
九尾が言うにはいきなり全力の思考補助を行った場合魔物側が耐えきれずに負けてしまう。
だからほんの僅かずつその真価が引き出せるようにしてある……らしい。
そしてメインの効果だ。
「どうかしら? やれている?」
「わわっ、なに!?」
ユウレンがテントから顔を覗かせる。
するとハックのリングが輝き出した。
それにハックもいきなり脳内にデータが流れてきていることだろう。
これが万能翻訳機と私のスキルから仕組みを割り出して作られた機能。
ゆっくり自動学習だ。
拾った音声が言語ならば学習し見たのが文字なら学習する。
万能翻訳機のように発音は自動でなんとかしてくれるらしい。
そして良い所は鬼のような高速自動学習はなくて、本体がまずは分析し覚えてくれるが受信側はゆっくり覚えられる。
しかもその間は補助として万能翻訳機の機能が働く。
「どう? 変な感じ?」
「ううーん、なんだろう、頭使っている感じがする〜」
うん、調整はバッチリなようだ。
「あら、じゃあ私の言葉も直接わかるのかしら」
「まだ翻訳されている感じ〜」
「言葉を覚えるのにしばらくはかかると思うよ」
「おお、主。ついに装置が完成しましたか」
「ひゃあ!?」
ハックのリングがまた輝く。
アヅキが近くに来て話したからその言葉も学習しはじめたからだ。
よし、この調子で今ある数は配ってしまおう。
「はい、アヅキの分」
「ありがたく頂戴します」
さて、アヅキはどこにつけるのだろう。
カチャカチャとアヅキが音をたててつけたのは……
首だった。
「え、そこ?」
「何かおかしかったでしょうか……?」
「いや、大丈夫だけれど」
こう鳥が首につけるとは思っていなかった……
なんだろうリングの輪が羽毛に食い込んでいて喉を締めているように見えるせいで被虐嗜好っぽい。
そう気がするだけだけど。
そのままアヅキも起動を済ませる。
「む、なんとなく不可思議な感覚が伝わってきますね」
「まあしばらくすれば慣れるよ」
「わかりました」
どんどんとこの調子でつけていこう。
「はいインカ兄さん、これ」
「お、これが例の? 出来たんだな! つけるつける!」
インカに渡すと迷わず左脚につけた。
すんなりとハマり起動させる。
「わわっ、なんかザワザワするな?」
「大丈夫、じきに収まるらしいから」
さて次は……
「コレをつければ良いのか? どこでも?」
「問題ないよ」
ジャグナーに渡したら左耳に引っ掛けた。
スッと縮まって収まる。
そんなのもアリか。
「む……! なんだか閃きそうな気がするな」
「それは良かった」
ドンドン行こう。
「おう! つければいいんだっけな!」
「勝手にサイズ合わせてくれるよー」
イタ吉に渡したら右腕につけた。
特に理由はなさそうだ。
「ほほう……? これは」
「これは?」
「なんか夢でも見ている気分だ……」
危ないお薬ではありません。
あとは……
「なるほど、ローズ様の言うことが確かなら僕にもつけれそうですね」
「それじゃあつけますね」
ドラーグは翼の先の角につけた。
根本までいくと勝手にリングが広がり問題なくくっつく。
さらにたぬ吉は左後ろ足に履くようにつけた。
「むむむ、なんだかいろんな事が気になりだしました……」
「僕はあまり変わりないですね」
たぬ吉の変化とは別にドラーグは至って普通と言った様子。
元々賢ければあまり補助の意味は無いらしい。
残りは。
「では我々もつけさせてもらいます」
「まあ私たちとしては期待できる機能は翻訳機の代わりよね」
カムラさんは左の人差し指に、ユウレンは右の人差し指に。
指輪のようにはめることも出来たらしい。
ふたり共つけ心地は問題なさそうだった。
そして私。
ぶっちゃけつける意味がないので先に必要な相手へ優先的に回すことにした。