七百五十五生目 剣骨
暗いところから伸びた暗黒の鎖。
幽霊たちに巻きついた時点で嫌な予感しかしない。
実際の所変化はすぐ訪れた。
「う、うぎゃあああ!!」
「や、やめぐはぁっ!?」
引きずり込むように力が込められると同時にエネルギーでも奪われたのか悲鳴が上がる。
実際に吸われたようで紫電が走った。
少しするとポイと捨てられる。
吸われた幽霊魔物たちはプスプスと煙をあげながらひどくやつれて倒れ伏していた。
……封魔石!
彼等も捕まえておこう。
封魔石は状態を保存する。
良くはならないが悪くもならない。
それもよりもだ。
暗黒が中の者が動くことにより晴れていく。
それはより濃密な黒に退けられるように。
中から現れたのは……白い腕。
あまりにも白い。
肉の色すらないと言っても過言ではないだろう。
なぜならば白骨そのものだから。
「ひえっ」
次に現れたのは刃。
鎖がぶらさがり金属のジャラジャラとした音が鳴り響く。
剣に……巻きつけてあるのかな。
剣は見た目は豪華そうだがどこか古めかしくそして手入れが足りていないかのようにボロボロの刃だ。
しかし剣ゼロエネミーを通してわかる。
あの剣はあれで完成形なのだと。
重々しく暗黒を払い除けて薄まるとついには全貌が見える。
それはやはり白骨の人型。
堂々とした佇まいで椅子に座り眼球のない目でこちらを見るのは単なるスケルトンではなく骨の王とでも呼ばれるような魔物を想起させる。
しかし骨の王にあのような剣は持っていないし異様に小さい。
ほとんどニンゲンの子どもサイズだ。
着込んだ立派でなおかつ擦り切れた服やローブがどことなく釣り合わない。
しかし胸の奥にしまいこんであるものに目が惹かれる。
あの黒い短剣は一体……?
"観察"!
[宝石剣アンデッドソウル]
[世界に7つある宝石剣シリーズの深い黒の死から誤審する短剣。持ち手の力と呼応する。対象が属するものがアンデッドの場合威力プラス200%・アンデッドに対して威圧と恐怖を与えアンデッドからの攻撃を半減。アンデッドからの状態異常攻撃無効化]
うわでた。
このシステマチックな解説文も魔王の力が分割されたものなら納得だ。
彼等が創造神のうちの1柱なのだから。
ちなみに私はアンデッドではないのであの短剣からは驚異を感じない。
むしろ精巧で黒い宝石の作りに美しさすら感じる。
……肋骨の内側になければ。
子供のようなそのスケルトンは組んだ足を戻しゆっくりと立ち上がる。
さて……この毛皮に張り付くような嫌な気配。
そろそろ無視するわけにもいかないよね。
[プリトン Lv.40 比較∶(異変)強い 異常化攻撃∶鎖縛引力 危険行動∶解放技・生死暗転]
[プリトン 通称骨の王女。囚われた魂が骨に深く染み付き変質し続けたひとつの姿。生前は不死たるものを憎む心を持ったものがなると言われており、アンデッド狩りのアンデッドになる]
うわかなり強そう。
あの鎖で捕らえられたら拘束と生命力吸引されそう。
呪いに強いだろう幽霊魔物たちがあっさり吸われていたあたりアンデッド狩りのアンデッドというべき力がある。
そしてやはりというかなんというか。
眼窩の奥から覗く怪しい光はこちらを見据えていたし。
小さいのに凄まじい殺意だけがこちらへと研ぎ澄まされていた。
慣れない者ならばこのまま殺意で息を止めて死んでしまいそうな。
「……貴方は?」
「……オ……」
「う」
「オオオオオォォ!!」
凄まじい圧力と共にこちらを吹き飛ばさんとする凄まじい力!
明らかに正気ではない!
しかもこの圧力は呪いの塊だ!
対策なしで喰らったらこれだけで魂すら死ぬほど苦しめられて一瞬で地獄行きじゃないだろうか。
これ街中に絶対放っておいていいもんじゃない。
おそらく事前調査ではここまでのやつは見つからなかったんだ。
何せアンデッド殺しのアンデッド。
こんなところでゆっくりただ静止しているだなんて想像の外だ。
そして今アンデッドたちから力を奪い目覚める。
一瞬姿がかき消えたと思ったら既にインへ踏み込んでいた。
おお速い!
技術的な速さだ!
こういうしのぎあいはドライが最も得意とする。
ドライの動きで素早く鎧針が展開され針をそこから生やし鍔迫り合いが行われる。
力が……強い!
出力を上げているのは宝石剣か!?
アンデッド殺しがアンデッドに力をあげてちゃ世話ないよ!
なんとかしのいで仕切り直す。
暴走して腕前が落ちていればよかったのにめちゃくちゃ技巧がしっかりしている……
3回ほど斬り込んで来たのを避けたりしのいだりしつつ。
背後へ跳んで武技らしき連続斬りを避けた。
音がえげつない!




