七百五十四生目 暗黒
相性問題は時に残酷である。
激しい雷撃が薄っぺらい板1枚で絶縁され受け流されたり。
燃え盛る炎が空からの水滴でわけもなく消されたり。
つまり今私の前でさっきのあいまに死屍累々を晒している幽霊魔物たちは相性問題でほぼ何も私に出来なかったのと同じである。
あれ……? もう死んでるみたいな奴らが目を回して倒れているのは死屍累々……?
まあ細かいことは良いや。
「ハァ、はぁ……30体! "クールダウン"……」
自分に火魔法"クールダウン"をかけて平熱に戻す。
激しく動くということはそれだけ身体の内側にどんどん熱こもるんだよね。
毛皮の弱点と言うべきか……
そこに体力と水分を持っていかれるので定期的に熱を落とす。
あっつい!
火無効効果はあっても熱はどうにもならない!
「おいい、アイツやばすぎるぞ!」
「つえぇ、やっぱさあ」
「いや、だめだろ。アレはこっちの事情を推し量るやつじゃない。アレ自身が動きたがらないと」
「でも頼んで見るだけなら!」
「無駄だ、もっかい死ぬだけだぞ!」
何やら生き残った……生き……? 幽霊組が鞭剣ゼロエネミーに追われながら何か相談している。
私の追いかけている方もこの状況をどう打破するか悩んでいるらしい。
これは……多分過半数は削ったかな?
いや30は倒したのに過半数行ってなかったらさすがにキレてモンスターハウスごと焼き払う可能性が出てくるけれど。
もはやどこの扉も開け放たれているから潜んでいる気配も薄い。
あと10ちょいを倒せれば!
「そらあっ!」
「ま、また来たぞ!」
「おかしいだろ、元気すぎる!」
もはや私は襲う側である。
目を輝かせ暗い部屋に輝くイバラと爪と牙。
空には新しく打ち上げたかがやく聖なる光。
イバラで有るのか無いのかわからない霊体たちを打ち上げつつ空中でお手玉する方法も慣れてきた。
もちろん光のエンチャントしているからできることだが。
猫と大型犬とヒョウとヤギの霊体魔物たちを全員打ち上げたくさんのイバラを高速回転させつつ全体では球の形を保つように殴る。
「「うやあああぁぁぁー!!」」
乱打乱打乱打!
乱打のコツは1発ずつ丁寧に!
それでいて絶え間なく!
(そらあぁー!)
ドライの掛け声と共に打ち上げた彼等の元へ駆ける。
通りすがりに武技"叩き付け"に聖魔法"ホーリースラッシュ"!
激しい叩きつけと共に斬り裂かれ吹き飛ばされる幽霊たち。
4つ封魔石を投げて……捕獲成功!
よーし後はよけいなことを残党がしでかす前に追い詰めるだけ。
何せ何か鬼札を切ろうとしているみたいだしね。
正直危険覚悟のやつを使われてみんな無事に済むことはほとんどない。
さすがに学んでいる。
ただ……何が起こるのやら。
「またやられた……! なんてえげつない!」
「くっそ、あの石に封じられたら復活しないみたいだな!」
「……ムリだ! もう勝てねえ! 逃げるか?」
「逃げたいならひとりで逃げな! 俺はアレを呼び起こしに行く!!」
「マジか!?」
「地獄はここだったか……」
残った面々が私と鞭剣ゼロエネミーに追いかけられたりしばかれたり反撃に空間が光を失うほどの爆弾魔法投げつけたりして。
その爆弾を鎧針と"シールド"の小盾をうまく使いしのいで。
何か相談をしたら一気に上へと逃げていく。
「待てェッ!」
私は空中を重力無視で登っていく幽霊魔物たちを追いかける。
本当は霊体化して物質をすり抜けたいのだろうけれど私の打ち上げてある光がそうはさせない。
3階までたどり着いたときには既に1つの大きな扉を開いて向かっていた。
そのまま突入していく。
このモンスターハウス内だと気配がどうも瘴気的な邪気的な何かで惑わされて近くないとわからないんだよね。
闇魔法に近いものだとすると混ざり合う性質のせいかな。
そうして部屋へと入りおぞましく感じる空間を進んでいって感じる。
だんだんと奥へと進むほどにとんでもない力の気配だ!
なによりもどんどん細かった廊下が奥ほど広がるしここの部屋だけで何百メートルあるんだ。
空間が歪められているというわけかあ。
でも数百メートルの距離は私にとって対して時間稼ぎにならなかった。
しかしたどり着いてすぐ目の前に暗黒が広がる……
私の暗視は当然物理的に何かで塞がれていたら見えない。
今目の前の黒い暗黒はまさしくそれだ。
濃密な暗黒がひろがる……
ただ変化はすぐにあった。
中から逃げるように幽霊たちが飛び出てきたからだ。
「もうしらねえぞ!」
「俺たちも終わったかもしれん……」
「あ、あぶねえ!」
何か轟音が響く中から命からがらといった様子で逃げる幽霊たち。
しかし。
「え?」
幽霊ひとりひとりに鎖に見える暗黒が伸びて縛り付ける。




