七百四十九生目 狐布
封印した能力のことはともかく。
私は不気味な庭を何事もなく抜けて玄関の扉までやってきた。
おいでおいでと手招きされているような嫌な順調さだ。
まあ行くしかない。
ここの解決にやってきたのだから。
……モンスターハウスの人気のなさは報酬の少なさだけではない。
怪奇現象と呼ばれるものが起こるからだ。
恐ろしく不可思議で悪趣味に悪辣な仕掛けがたくさんある。
まあ住んでる奴らの趣味なのだが。
扉を重々しい音とともに開く。
部屋の中は真っ暗でニンゲンならば何も見えないだろう。
私は耳と鼻を効かせつつすぐに目が慣れてくる。
――背後で急に扉がしまった。
バタンと大きな音の後ガチャリと鍵がかかる。
なるほど聞いていたとおりだなあ。
念の為に扉のドアノブをまわしてみる。
まるで反応しない。
なるほどなるほど魔法ではなく呪術での封印式だ。
ぶっちゃけ破れそうだけどやめておく。
それが目的じゃない。
どこからか暗闇の中で不気味な笑い声がいくつも響いた。
まさしく新たな獲物いらっしゃいと言いたい所だろう。
……聞いていた内容では彼らには真正面から挑んではいけない。
力で押してくるものにはそのまま壁の向こう側まで走っていってもらって勝手にコケさせる。
そういった類の力を使う。
冒険者の苦手なタイプだろうね。
普通にビビらせに来るから余計にだ。
ビビるとモンスターハウスのし掛けが動く。
元々幽霊とかの魔物が持つ能力である吸魂。
体力や行動力それに精神力を奪う。
わずかずつだけれど積み重なるとバカにならない。
最後には魂すらとられる……つまり死ぬから吸魂。
モンスターハウスの呪いで心にスキができたときに吸魂が起きモンスターハウスの全員に分配されるのだ。
そう……呪い。
"自己無敵"! 精神暗転!
呪いの効果を反転させる!
私が心のスキを見せていない時に逆吸魂できるようになったらしい。
元気だ。
私は精神暗転と霊的存在の攻撃すら喰らうことが出来てめちゃくちゃ対面有利なんだよね。
だから前個人で幽霊洋館の迷宮に行ったんだけど。
あそこの相手はこっちに手が届かないと見るやバンバン魔法に切り替えてきたからなあ。
果たしてこっちはどうなるかな。
とにかくやっちゃうか。
ここの屋敷は立派な作りだ。
元は権力者の家かなんかだったのかな。
立派な作りで3階まである。
そしてそのどの部屋からも漂う邪気とも言えるにおい。
染み付いた淀んで湿った独特のにおいだ。
んじゃあ亜空間から剣ゼロエネミーを取り出して。
銃ビーストセージを構えて。
[ライトエンチャント 光の力を武具に纏わせる]
この光魔法は他の武具へ宿らせるタイプのものとは結構違う。
武器がなまくらと化すのだ。
なんとコレで斬りつけると癒やしの効果が発生する。
もちろんそんなことをする意味は薄いので普通は使わないのだけれど。
剣ゼロエネミーがくるりと空中で1回転してから天井に向かって水弾を放つ。
水弾は天井……つまり2階の床下に当たると輝く水が空に舞う。
「「ギィエエエエ!?」」
一気にこのフロアのなんだかモヤモヤした黒い霧みたいなのが晴れたし謎の悲鳴が響く。
天井や床からするりと物質を無視して幽霊みたいな黒いものたちが走り抜け他の部屋へと行った。
どうやら不意打ち一発はきいたらしい。
とまあああいう幽霊系に凄まじく効くんだよね。
ちなみにアンデッドにもよく通る。
ただやっぱり生者には普通に回復なため兼ねあっているところでは火でもつけておいたほうがずっといいのが悩みどころ。
キラキラした剣ゼロエネミーは自身を変形させつつ扉のスキマに入り込んでいく。
うわあ無理やりだ。
確かに扉なんて開閉の問題で僅かに隙間がある。
自身が水みたいなものだからとんでもないゴリ押し。
向こうからまた悲鳴や怒号が聴こえてくる。
ゼロエネミーのオート行動は優秀だから気を回しつつ任せても良いかな。
私は私で別の部屋に入った。
開ける時の扉が重く閉める時が軽い上カラという音!
「よっ!」
前へ転がると私の背後にドシンと重く響く音。
金ダライ……よりは威力のありそうな金属塊が落とされていた。
ブービートラップ。
なるほどこうくるか。
「ウケケ」
「ひっかかったひっかかった」
2体の魔物がふわりとやってきた。
片方は布を被ったかのようなもので目と口のところが裂けているが表情として動く。
[フククカ 揺れ動く布が会ったのならばそこにはフククカが隠れている。いきなり飛びついて顔に張り付き驚かしてくるし、そのまま危ない方に誘導する]
もう片方はしっかり全身ある狐のような魔物だ。
しかし体のラインに青く光るものが走っている。
明らかに普通ではない。




