七百四十五生目 昇格
冒険者ギルドに行かねば私と言えど盗掘と変わらない。
この王国……とりあえず神聖王国とよく呼ばれるのでその名前で。
神聖王国の冒険者ギルドはその看板に岩と歴史の重みを響かせていた。
神聖王国冒険者ギルドは1つの観光場所にもなっている。
中に用があるわけではなく外観に。
歴史的な外観を模しており古めかしく重厚な作りとなっている。
皇国の冒険者ギルドは割と街の建物そのままって感じなのに神聖王国王都の冒険者ギルドは建物がタイムスリップしてきたかのようだ。
でも中に入ればしっかり機能はそのままで。
賑わいもあり中へ……
おっと誰かが扉からこちらへ向く。
「チッ」
えっ。
そのまま何事もなかったかのように通り過ぎていくニンゲンの冒険者。
いやまあ……慣れすぎないようにはしているけれどやっぱ割とこういうタイプのやついるんどよなあ。
明らかにこっち見て挑発するような舌打ち。
0.05秒が我慢できなかった故の。
多分私が雑魚そうに見えるから簡単に舌打ちしたのだろう。
そういう意味ではよくある。
恐ろしさとかは感じないが肩はすくめた。
え? とはなるんで。
相手はもう視界内にはいない。
ああいう輩は冒険者ギルドでは淘汰されやすい。
……イライラしやすい場合連携を崩して大怪我を負いやすいので。
さっさと行こう。
列に並んでいて少ししたらカウンターまでたどり着いた。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はどのような依頼を?」
忙しい冒険者ギルドの時間ではだいたい相手の雰囲気で受付のニンゲンが何を受けに来たか判断する。
それはそれとして大手は専用窓口はあるが……
初回来訪の時はこの総合受付を使うしかない。
そして判断は武装と風格。
帯剣してないしぽやっとした格好になっているし。
うんそうなんだよね。
私めちゃくちゃ私服なんだよね今。
最近着替えるのが一瞬になったせいで軽鎧を仕込んで可動性重視した服は冒険時に着る! って考えているから。
別に冒険者ギルドに規定はないけれど話し合いになるだろうからそこそこ柔らかい印象の服のほうが良いかなと思って。
なので依頼を出す側だと思われた。
普段依頼を受けるって時に間違われないのは腰に帯剣している故でもある。
まあとりあえず……ギルドの証を出す。
「いえ、実はここの冒険者ギルドに新しく来て、登録作業をしようかと。これでお願いします」
裏に伏せて置く。
実はこれ暗黙の了解で情報を伏せてほしい時の技。
ただこれをやると『伏せたい情報がある』とバレるのでめちゃくちゃ目立つ。
さらに向こうのうっかりとかそもそも知らないとかある。
あくまで暗黙の了解なので。
周囲の目が集まったのをなんとなく全身で感じつつも話を進める。
向こうの人は知っていたようで証が周りに見えないように取った。
それを眺めて1秒。
疲労に疲れた顔の目に力が込められて。
一瞬こっちに目線をやってからもう一度証をみる。
見事な二度見だあ。
丁寧に証をしまってからこちらに慌てて礼をして離れていってしまった。
どうやら「お待ち下さい」というセリフが吹っ飛んだらしい。
……だとしたら新人さんだったかなぁ。
しばらくすると奥へ通された。
別に通されなくて良いんだけれど……
向こうもこっちを逃がす気はない。
ふらっとやってくる高ランク冒険者は冗談でもなんでもなく希少な魔物みたいなものだ。
場合によって全身が黄金で固められた魔物よりも価値があるかもしれない……
なにせ高ランク冒険者ってそんな魔物をいつの間にかたくさん狩るのだから。
ちなみに冒険者含むたいていのニンゲンは密猟が禁止だがクエストとしての形で狩りは多い。
それか生死問わず。
私は好みじゃないのであんまり狩りは引き受けないけど。
冒険者ギルドの中へと通され従業員たちがペコペコする。
うーん気まずい。
こればっかりは慣れない。
客室は普通のものだった。
最近防音結界性のやつばかりだったのでなんだか安心する……
つまりここには陰謀渦巻かないし策略尽くさない。
お相手はギルドマスターさん。
筋肉が鎧となって歩いてくるみたいな風貌をしている。
冒険者としての旬を過ぎているだろう深い白髪や刻まれたシワだけは彼が裏方なのを表している。
とりあえず互いに挨拶を済ませてギルドマスターはニカリと笑う。
「おう! これがまず更新して最新版に整えたものだ。おめでとさん!」
「ありがとうございま……えっ!?」
返ってきた証を見てみる。
すると前はランクUだったところがランクVになっている。
……3段階上昇!
受付の方じゃないが思わず証を見てからギルドマスターを見てまた証をみてしまった。




