七百四十一生目 鋼鉄
こんにちは私です。
ホルヴィロスに私の体を見てもらっている。
もはやいつものことなので互いにワイワイしたりはしない。
ちなみにワイワイする原因はだいたいホルヴィロスは私のときだけツルの動きがいやらしくなるからである。
「はい終わり……まったく、キレイに治るものだね」
「ホルヴィロスの腕が良かったからね。そこは疑ってないよ」
「お粗末様でした、蘇生くらいはできるんだから、このぐらいはやれないと私がいる意味がないからね」
「そうかな? 誰だっていてもいいとは思うけれど……ふぅー、やっと制限が外れた! 筋肉と骨が伸びるー!」
私は前足を前にだし後ろ足を立てて背中ごと伸ばす。
猫のポーズというんだっけ。
まあ私自身が親しいものではある。
実は直接目に見えるものではなく神力と魔力と薬とでバッチバチに身体やらその奥の魂やらを休眠化させられていた。
つまりとにかくローコストで動くように設計し直されていたというか……
コストを抑えつつその分回復にぶん回すという再生力が恐ろしく高い魔物みたいなことになっていた。
その状態で動き鍛えなくてはならなかったのでリハビリしんどいは理解してもらえると思う。
でもリソース全部つぎこんだ割になんの跡もなく治ったのはさすがのひとことだ。
「それで? 医者としては傷つかないようにしてくれるならそれで良いんだけれど、どうせ傷だらけで帰ってくるんだよね?」
「信用がない……」
「信用してるさ」
いやな信用である。
しかしどこにいく……か。
いやまあ決まってはいるんだけれど。
「……行っていない大陸は3つ。1つは黄金の大地。2つめは白銀の大地。そして緑翠の大陸」
「全部行く気かい?」
「もちろん。ただ、順番は決めないと」
「はぁ……大陸制覇とは凄まじいものだねえ」
「そのぐらいはしなきゃね」
せっかく便利な役職である冒険者という肩書。
利用しないとね。
「あとはまあ……ぶっちゃけていうと割と引く手あまたなせいもある」
「ああ、そうだね。ローズを呼ぼうとどの国もとりあえずツバだけはつけている」
ホルヴィロスが知っているのは私宛の書類を真っ先に整理するからだ。
そしてまとめられたご招待一覧のリストを私に渡される。
ちなみに全部まともに相手すると空魔法ありでまず私が多重に影分身する必要が出てくるからお断りのテンプレが行く。
ただ全部を全部切り捨てるわけにもいかないしそうするつもりもない。
別に世捨て人や偏屈ではないのだ。
効率よく出席している。
今までは青蒼の大地と島国の皇国それに朱の大地中心に回していた。
実は他の大陸に行ったことがないわけではない。
他の面々がファストトラベルポイントを見つけてきてくれている。
それも含めて本格的に乗り出すのはどこにしようかと悩んでふたりで唸っていた。
「せんせ」
「あ、はいはい」
ホルヴィロスがひとりの少女にお呼ばれした。
大河王国で奴隷階級にあった子どもだ。
川に不法投棄されていたところを救った。
ちなみに名前を聞いたら「名前とは?」みたいな反応をされた。
かなしい。
名無しの権兵衛でいられるわけにもいかないのでホルヴィロスがシュイソマティスと名付けた。
「わからん、おしえろ」
なお口はすごく悪い。
言語を学び始めたばかりなのもあるけれどホルヴィロスたちの方針もある。
まずは単語を基礎づくりから。
あとたくましく生きてほしいらしい。
散々誰かの顔色をうかがって生きてそして死にかけたがゆえに。
自分から死ぬことを受け入れたあの時彼女は確かに死んだ。
今は第二の人生だ。
「ほうん、わかった、今いくよー……あ、ローズお客さん」
「ああ、イタ吉?」
表で足音がする。
ホルヴィロスがシュイソマティス……シュイと迎えに行った。
にゅっと頭を出してくるのはやはり小イタ吉だ。
のこりふたりのイタ吉はまたどこかで仕事中だろう。
私はイタ吉を招きいれる。
「ああ、なんか次の冒険地どこにしようか迷ってるって?」
「そうなんだけれど……どの大陸に行こうかなって」
「違う違うだろ、大陸とかじゃあなくてさ」
私が疑問に感じているとイタ吉が首に肩を回してくる。
「ん?」
「鋼鉄の迷宮、まだ待ってるぞ?」
「あー……」
鋼鉄の迷宮。
正確にはロボット魔物たちは鋼鉄はむしろ少ないぐらいで様々な部品が組み合わさっているのだが。
私が地球の迷宮と呼んでいる場所だ。
イタ吉の笑顔が深まる。
私の顔がひきつってるのがわかった。
そのまま連行されるように準備をして……
その後めちゃくちゃ迷宮攻略した。
私の迷宮だけどなー!
知ってるめなんだけどなー!!




