百七十八生目 迫危
翌日昼。
「出来た!」
「おつかれ〜」
イタ吉が看板を地面に打ち付け完成となった。
冒険者ギルド(仮)だ。
最低限の機能だけを備えたもの。
イタ吉と私はユウレンとカムラさんから詳しい冒険者ギルドについての話を聞いたがやはりすぐに真似するのは難しいと判断した。
だからとりあえず出来る範囲だけ真似だ。
看板には名前が書いてある。
字はまだ学習させるのは難しいが大事なのはそこじゃないので絵で描いてある。
ハックにイメージを"以心伝心"の念話で送って絵を頼んだらササッと仕上げてくれた。
いつもの謎物体になることを危惧したものの意外にも正確に描いてくれた。
探索と冒険をイメージしたアイコン的な絵で、ハックはきちんと基礎が出来ていてその上で謎物体を作っていることが判明した。
そんな看板になんだなんだと周りに魔物たちが集まってきた。
「はーい、みんな、今日から『探索・討伐等支援組合所』をオープンしまーす!」
「通称、冒険者ギルドだ!」
イタ吉も元々持っていた万能翻訳機をつけて話している。
とは言っても近くによってきた魔物たち……つまり真っ赤な毛並みを持った仔犬のような魔物たちはわからないと言った様子。
まあそれは翻訳機が壊れてるわけじゃあなくて魔物たちは殆ど知らないだけだから仕方ない。
いわゆる形式上のおかたい名前は『探索・討伐等支援組合所』と言うらしい冒険者ギルド。
魔物たちはいつもお世話になっているものだ。
……主にニンゲンに狩られる側として。
「とりあえず中で説明するよ。どうぞ」
テントの中に入ればそこは冒険者ギルド(仮)。
あるのは急ごしらえで作れた机が1つと掲示板。
ショボすぎるという批判は甘んじて受け入れるしか無い。
「ここで出来ることはいくつかあるぞ! まずは依頼をすることだ!」
全員で机の周りに移動する。
机の上には紙の束とインクにペンがある。
まあもちろんあの小さい魔物たちの街から買ってきた。
「何か困ったことや頼みたいことそれにやりたいことがあったさいは、ここの受付に言ってね。最初はタダで頼めるけれどそのうちお金やモノがいるようにすると思う」
「お金ってなんですか?」
「あとで導入しようと思っている、物々交換の代わりに使えるようにするものだよ」
ふーん、とあまり分かっていない様子。
まあやってみないと実感わかないわな。
次は掲示板に移動。
「依頼されたものはココにはりつける! 中身は説明するから聞いてくれ」
「このバツの数が考えられる難しさで、いっぱいバツがあると大変だと思われる内容だよ」
「そして! この依頼はやってもらうことも出来る! バンバン依頼を受けてくれ!」
イタ吉がバンバンと掲示板を叩く。
壊れないだろうね?
「もういくつか貼られていますけれど、これは何なのですか?」
確かに数枚すでにはってある。
さっきオープンしたのにである。
当然これはこちらが事前に用意したもの。
「ギルドや私たちが直接依頼を出すこともあるんだけれど、コレはその内容かな。例えば左端のだと……『地面掘るの手伝って! ハック』って書いてあるよ」
事前にそれぞれのメンバーに今欲しいものを聞いていた。
ハックは大量の土掘り依頼だ。
「今のは比較的疲れるだけで安全だぞ! そしてこっちは結構危ない。『荒野に棲む魔物をスカウトしたい! 目星をつけている危険な奴らを倒せる奴も募集! ジャグナー』とのことだ」
あの街の言語ならイタ吉も日常レベルなら問題なく読み書き出来るらしい。
さすがに出来ないと生活が不便で必死に覚えたのだとか。
まあペンはうまく握れずに字は汚いが。
他にも同じ依頼をする仲間を仲介する役割や、依頼を達成した際の報酬について説明した。
「かくかくしかじか」
「ということはお金があれば、おいしいものも!」
「面白そうなものも!」
「自分だけの棲み家だって買えちゃうの!? すごいー!」
「お前説明うまいな……」
よし何とかこの魔物たちに話が通じた。
まあいっぱい稼がなきゃ思ったようには買えないけれどね。
その後は彼らの仲間に宣伝しに行ってもらった。
「じゃあイタ吉、まずはここの従業員とか一緒に働いてくれる魔物さがしよろしくね」
「おう! まあしばらく観光がてらになるがな」
まあその間くらい私が代わりにここで受付しとこう。
〜視点変更〜
同じ頃。
荒野の迷宮出入り口のある山岳にて。
「ぐあっ!!」
攻撃を喰らい空から山の向こうに落ちる大鷹。
『風矢』のワベアシだ。
少なくともこの一帯の主のような強者だったがつい先日ローズオーラに負けたばかり。
「くそっ、この俺がまた負けた……!? 何なんだ最近……!」
自然と鷹は声を殺してそう呟いた。
彼は助かっていた。
崖際にあった足場になんとか身体を引っ掛けたからだ。
しかしその身体は再び戦うにはあまりにもボロボロだった。
ローズオーラたちに負けた傷ではない。
今さきほど負わされたものだ。
「噂に聞いていた大鷹だったが……
なんだ所詮噂だったな」
背にある鞘にその刃をしまい若くまだ未熟な少年はつぶやく。
そう、まだ年端もいかない人間種の少年だ。
それに大鷹は負け今も声をひそめるほどに深く傷ついた。
身体も心も。
少年が崖から見下ろす。
そこには何もいない。
興味なさげにその視線はすぐに空へと向かった。
「ふぅ……」
実は鷹のいる位置は幾つかの凹凸の向こう側で真上からはちょうど見えない。
ただの偶然が討伐対象として選ばれていた鷹の命を救うことになった。
「まあいい……行くか。
もっと……もっと力を得なくては……鍛えなくちゃアイツを……殺せない」
少年は握りこぶしを締めて崖から飛び降りる。
足場をいくつか渡って行くその先。
荒野の迷宮の出入り口だった。