七百三十五生目 悲鳴
結局私たちは彼の儀式を止めないことにした。
ダカシも私たちの元に戻ってくる。
……実力差的に取り押さえるのは簡単だ。
向こうも切り札の1つや2つは持っているだろう。
さらにこちらは本調子ではない私に分神で弱いグルシム。
さっきのパンチが偶然レベルの攻撃しかできないダカシだ。
それを加味しても拘束くらいならばなんとかなる。
なるが……
説得する手札がない上に果たして被害を起こすのかも不明。
何より弱くとも善人である。
神はまた別として彼らが現行法で何かさばけるかと言われたら無理なんじゃないかな。
さらに向こうは現状こちらへ攻撃していない。
つまり法的にも客観的にも私たちの方が弱いのだ。
ここは街中。
互いの思惑でやりあっていいただ中ではない。
もちろん特権的に私たちの方が上ではある。
ただ特権とは書いてのとおり特別な権利。
振るうには乱用ではないと自他共に納得できるものでなければ。
「では、見ていてください。某が不死たる神になるのを!」
テクが満を持したという風に振り返っていく。
他人から見たときの銅鏡は普通にしか見えず……
本人にだけその中身や本質みたいなものを見せていく。
テクは資格のあるものが鏡をみることでシンシャを引き継ぎ神になれると言っていた。
しかしいくらこの鏡が神力高まっているとはいえ……
そんな簡単に神になれるのだろうか?
しかも『シンシャに』というのも気になる。
しかし既に賽は投げられた。
テクが鏡の方を……向いたのだ。
「さあ! 某を先祖から引き継ぐ神の一席へと加え給え!! ハハハ、アハハハハハハ!!」
急激に場から神力が高まってくる。
なんなんだこれは……
何が起きても良いように私は首から下がる竜の鱗と宝石で出来た飾りに前足を当てて神力を解放。
私の神力を使い各々に付与する。
"神魔行進"!
「ハハッ! ……ア? なんだ、この映っているの……おい、どうなっている? 某に何を見せようとしている!?」
突然テクが前へと詰めより鏡へ腕を伸ばす。
しかしそこでピタリと止まった。
「テク……?」
「や……やめろ……違う、体が、体が老いていく、やめてくれ!」
「テク! ぐぅ!?」
「ムッ」
ダカシが飛びついたと思ったが直前で凄まじいエネルギーの密度に阻まれる。
まるでトランス前みたいだ。
迂闊に近寄れない。
ダカシは吹き飛ばされ床に倒される。
「何、トランスかなにか!?」
「あああ……見せるなあああぁ! 違う! まやかしだ、某はそんな風になってなどいないぃ!! 化け物! 違う、老いてなどああああぁ!!」
テクは自らの身体を抱えている。
そして逃げ出そう目をそむけようとしているのがみえるのに……
一切動けないでいた。
私たちからは見えないテクの映し出された姿。
それがなんなのかは……想像だにつかない。
「ぐああああああぁぁ!! ウワアアァァァァ!!」
「テク……」
「こんなの……しら……ギャアアアアアアァーー!!!」
テクも予想外らしく絶叫だけが響く。
それはもはやニンゲンというより化け物という絶叫で。
やがてテク自身にも変化が生まれる。
テクの体が内側から光りだしたのだ。
「なに、これ……」
「うわ……」
悲鳴の中行われるその姿は……
端的に行ってもはやグロかった。
光が出てはいけない穴という穴から出てくるし。
体がどんどんとひび割れてくる。
そこからも漏れてはならない光が伸びていた。
「ローズ!!」
「もうやってる!!」
「無駄だ」
「か、髪が、肌が、筋肉、骨、なくな……あああああああああっ!!」
私やグルシムが全力を出して現象を抑え込もうとしている。
だけれども。
まったくもって揺るがない!
なにせ揺るぐには次元が違うようにしか感じない。
遠い……!
目の前にあるのに!
やがてテクの中から光以上に銀の何かが溢れてくる。
銀の輝きはやがて液体となっていく。
つまり水銀の形をしている神力……!
肉体が飲まれて行き全身がドロドロととろけるように液体の中へ。
見ているものがこのような景色だとしたら……
少なくとも愉快な気持ちにはなれないだろう。
絶叫はくぐもり地の底から響くようなものへと変質していく。
私たちはやれる範囲のものをぶつけているもののまるで手応えがない。
むしろ周囲に圧力がかかってきて大荒れ天気模様。
倉庫だったせいで勝手に周囲が片付いていく。
むしろ汚くなっていく。
これ抑えられるのか!?
正直私たちの間では絶望の感覚が広がっていた。
トランス時の圧力は神にすら跳ね返せないのはもはや常識的。
それに似た目の前の惨事も1度起これば止められない……
「鏡を……ぶっこわせば……ぐっ!」
鏡を破壊しようとダカシが手頃なものをぶん投げたがやはりあの一帯は弾かれてしまった。




