七百三十四生目 決断
銅でできた鏡……これが彼らの言う不死の鏡。
黄金色に美しくも金とは別種の雰囲気を放つ。
「きれい……」
「魂が汚される想いだ。宝具か」
「ふふ、『これまさしく宝具とよぶべきもの、これに比べてしまえば自分の魂が汚れて見えるかのようだ』ですか。某はまだ見たことはないのですが、それはとてもいいものですね」
「しかし……フム」
グルシムが考え込んでしまった。
鏡に映る自分の姿をにらみつけているようにみえる。
まあ肝心なことを言わないのはいつもどおりとして。
ただまあグルシムやダカシの姿は普通なのだが私の姿は……何?
ぼやけているといえば良いのか。
重なっているといえば良いのか。
私という存在が曖昧でふたしかなものだと言うかのように多数の姿を……いまのなに!?
今私も知らない姿が。
ああ消えちゃった。
「うん……うわっ!? 誰だ!? いやこの姿は知っている……俺の中の悪魔が映ってる!」
どうやらみんなして映る姿が違うらしい。
テクは少しわらいながらも鏡を背中にして立つ。
「どうやら、みなさんこの鏡に自分の中にある鏡にうつる姿を見たようですね。この鏡はシンシャ様から伝わっているだけでもかなり特殊なものと聞いています。何より、もし新たな族長にふさわしきものが鏡を見ると、新たに族長になれるとも。シンシャ様に見定められた我ら3人は、その資格を持つ者たちです。鏡を見て試練を乗り越えられた時、私が族長シンシャに……引き継がれる不死の存在と某がなるのです」
「そ、そうだった! シンシャは神の1柱だから、別に死んでも復活はするはず……なのに、引き継ぎって? 不死に、テクさんが……?」
「シンシャ様に与えられた死は、それほど特別だったということ。お話は伺ったことがある。ここの封印が解かれる死は、全てを破壊しつくす、神が扱う神殺しを喰らった死、のみが適用され開くと」
神殺しの力!?
そんなものもあるのか……!
あの技は確かに凄まじい殺意を感じた。
神力も潤沢だったし。
でもニュムペはまた復活する前提で話を進めていた。
……あ! そこが勘違いの元か!
「……神は普通に殺されれば復活はすぐ、しかし神殺しで殺されれば、おそらくめちゃくちゃな時間がかかる」
「実例もある。神殺しの力、それは神としての形成を壊さん。所詮名ばかりだがな。半分だ」
「ふむ……神々の仕組みとはそうなっているのですね」
「お、おい、ふたりとも、納得してないでどういうことか教えてくれよ」
「今のは……『半分だけ正解で、神は、その司るものや形だけは、基本的には神殺しでも壊れない。実例もあって俺自体がそうで、復活したものは大きく大元と変わってしまっているかもしれない』……と」
実際グルシムも本来は名前すら違う神だった。
グルシムのパターンが他とまったく同じかはわからないが……
少なくとも一般的な感覚の復活ではない。
「つまり……場合によっては同じなだけの別人になるかもしれないと? それは……不死じゃないな」
「それらを変える1手がコレというわけですよ。某は先代のシンシャ様を受け継ぎ、そして某もシンシャという枠に加わることで不死の輪が完成するはずなのです」
それって……どうなるんだ?
特に。
「テクさんの意思は、一体どうなる……?」
「うん? それは某は某ゆえ、受け継がれても代わりはしませんよ。某とシンシャ、両方あるだけなのです」
なんなんだこの違和感。
彼はうそを言っているにおいはしない。
それに『はず』っていうのもなんだかあやふやだ。
今回の鏡もこれから初めてみるらしいし。
そんな簡単にニンゲンが神になりかわれ受け継げるのか?
そもそも不死として完成するには各々の意思問題があるし。
ひっくるめていうと嫌な予感はする。
「テクさん、待ってもらいたい。なんだかこの話、おかしい気がする。多分何か重要な情報が抜け落ちて――」
「そもそも、某はここの者たちになにを言われても止める気などはない。聖なる儀式を止めるのならば、某たち全員を殺されよ。その覚悟で止めるんだな」
語気を荒らげたわけでもないのに強く断言された言葉は私にもみんなにも響いた。
彼は……本気だ。
宗教に殉ずるものは多いがテクは実益が叶う可能性もあり必死なんだ。
「やるか」
「ううん、さすがに……ただもしもの備えはしよう」
グルシムはたとえここの面々を全滅させてもいいと判断した。
グルシムは敵と判断すれば容赦はない。
その苛烈さは守るべきものを守りきれなかった過去から来ている。




