七百三十一生目 納得
『あの銀の濁りはおぞましい……我が感覚に触れるだけでおぞましく嫌悪を撫でる。水としてその行く末を見てはいたが、飲むものたちへのかなりの害意は感じた』
ニュムペは自らのヒレを扇のようにして口元を覆う。
感覚を思い出したのか顔が苦虫を噛み潰したかのようだ。
まあ実際のところ搾取しようとするエネルギーだったからね。
ニュムペは水として各々の生活圏やそもそも吸い取られ飲まれたりもしてきた。
もちろんニュムペとしてメチャクチャ強い自我がある状態ではないが。
そこでもわずかに含まれた銀色の液体がほんの僅かに神力で何かを……寿命らしきものを奪うのを目撃したと。
自分が何らかの神に悪用されていると確信したニュムペは水の怒りと自身の存在を集めた。
とにかくここまで追い詰めるのが大変だったようだ。
今回は様々な積み重ねでやっと尻尾を出しただけでニュムペが知るだけでもずっと……ずっと昔から行われていたのだとか。
『妾は別に全世界全ての水を司るものではない。故に、その全貌を知る由もないがのう。しかし、ここの場では純なる水が湧き出ているため、ここで決めたかったのも事実じゃ』
「純なる水、ですか? そこの湖の?」
『いや、そこの湖はあくまでただの水……もちろん迷宮産ゆえ、それなりに含む力は多かろうが、そこではない。妾が指すのは、地上の川よ。あちらは、妾すら関与できん。より高位な力が満たされ、全てを飲み込もうとしておる。湧いたのは後からのはずじゃが、はたしてどのような尊い力の持ち主か』
ああー……密林の。
だとしたらこれだ。
私は亜空間から水を生み出した槍でもある神海創槍ミフソホを取り出した。
「これですこれ。この槍……正確には古代神の一部がわかれた身で、あそこに刺して創ったんですよ」
『おお……おお……! こ、この力が……! す、凄まじい力を……ウッ!』
ニュムペが水が泡立つほどに震えた。
恐る恐る槍の方に手を伸ばし……
何か目に見えないものに弾かれるように体をのけぞらせる。
しかしかえって熱っぽく槍を見た。
「大丈夫ですか?」
『す、凄まじい力……妾では近づくことすら出来ぬほどの密度……存在の格が違う……』
「え、これ他のみんなや私は平気なんですが……」
『それもそのはずじゃろう。貴殿らはあくまで異質、ものが違う。しかし妾とその御方の体は同質。同じものゆえ、許しを請わねば近づけぬほどの激流に感じるのじゃよ』
「ああ、なるほど」
それならなんとなくわかる。
魔法も似たようなことがある。
同質系統の魔法だと一方的に強いほうが打ち勝ちやすいのだ。
別系統だとそれぞれが食い合う。
「それで、これからなんですが……」
『感謝するぞ、獣の神。妾はもう満足した。向こうに存在と驚異をしめせた時点で満足しておる。これからは妾に怯えながら仕込みをするじゃろうな』
ああやっぱり止めるとは思っていないんだ。
満足そうだから何より。
ただある程度自制してもらわないと困るのはこっちなのでそこは私の管轄かな。
ニュムペの体が崩れ出した。
ほどけるように水へとかえって行く。
『ふう、だいぶ使われたわ。妾はあくまで水のもの、このようなかたちを取るのは不本意であった。そこに転がるニンゲンたちは回収しておけ。道も塞げばよかろう。妾は……いつも……あの街も……貴殿も……見守っておるぞ…………」
まるで幻覚だったかのように解けていく。
水が光に照らされて幻想的だった。
ニュムペは……もしかしたら私達のかわりに怒ってくれた部分もあったのかもしれない。
あれ?
私はニンゲンたちを回収して外に出て魔法で作った岩を物質化させ配置し入り口を塞いで気づいた。
いつの間にかテクがいない……
テクはニュムペに強烈な吹き飛ばされをくらい洞窟のどちらかといえば入り口方面へ行っていた。
とはいえ確実に被弾はしていたはずなんだけれど……
まさか途中で目覚めて逃げた?
その可能性は高いな……
正直鎧袖一触なほどに力の差はあったし。
落ち着いて対処するにしても数と武具が必要だろう。
だとしたら早くキャンプまで行かなくちゃ。
私はトゲなしイバラで抱えたふたりを持ちつつワープした。
ワープした先で間に合うかなと思ったが何らかのスキルか道具を使ったらしい。
既にキャンプは騒がしかった。
私が向かうと既にダカシもいたしなぜかグルシムもいた。
「ふたりとも!」
「ローズ! なんなんだこの騒ぎ、知らないか?」
「騒々しいな、役に立たんが」
「ああ、ふたりとも今来たとこなのね」
こっちの事情は走りながら語る。
グルシムはいつもどおりよくわからないがダカシは顔を曇らせていく。
「そんな……本当なのか? 彼等がそこまでのことをしているだなんて」




