七百三十生目 顕現
水に睨まれるという人生3周目くらいに達成する実績を解除した。
そうこうしている間に物事は進んでいたらしい。
テクが大きく洞窟の入口側に吹き飛ばされる。
「ガハッ」
『さあ、邪魔者はいなくなった』
「ま、待って、話し合わないか! ほら、儂たちはまだ互いのことよく知らないというか、どこかすれ違っているのかもしれないし、もしかしたら誤解を与えているかもしれない!」
『ほう、申してみよ。各地の水場でニンゲンたちに銀色の濁りをわずかずつ飲ませ、その濁りを回収したあと奪った年齢をそやつらに飲ませ、ニンゲンとして限度を超えた年齢を生きながらえさせている、何よりも妾の水という領域に無断で汚し力を介入している……そのことに申し開きはあるか?』
「いや、その、ただ……し、死にたくない! 助けてえぇー! 死にたくないだけなんだあああぁー!!」
『おっと』
うーむどうやらニュムペの言っていた通りのことをしていたらしい。
なるほど寿命の受け渡しね……
いろいろ気になることはあるもののなんというかそこまでいくと生きるという本能を燃やすというよりかはただ寿命を奪い続け伸ばし続けるのが目的になってしまっているような。
少なくともこっちが被害にあいそうになった分は否定したい。
今魔法がきらめいて風の刃がニュムペを斬り裂く。
しかしニュムペは柔軟に形を変えて水になって避けてしまった。
今のは少なくない神力が籠もっていた。
続いて追い出すような風やら燃えたぎる炎やら土の壁やら。
ニュムペは弄ぶようにのらりくらりと避けて土の壁を水で流れ避ける。
精霊がないのにずば抜けた魔法の扱いに見えたけれどがむしゃらでもあった。
ニュムペは再度かたちを取るとまた水泡を生み出し腰の抜けたシンシャを包む。
「誰かああああぁ!!」
『さて、償い程度はしてもらおうか?』
「た、助けガボボッ……!」
「そ、その、やりすぎはしないように……」
『何を言うておる。こやつは神ぞ。やりすぎなぐらいで、やっと多少の痛手じゃ。そのぐらいは恐れてもらわれねば、話にならぬ。このように』
ああ……そういえばそうだった。
しかもやったことが聞く限りかなりあくどいっぽいしなぁ……
あんまり擁護もできない。
水泡の檻は徐々に狭まっていく。
中に水が満たされているのにだ。
つまり中にいるものはどんどん加圧されるわけで。
暴れてなんとか破壊しようとしているが追加で水を足され続けている。
相性と場所と準備の差が悪すぎる。
ニュムペはこの日のためにかなり蓄えてきたみたいだし……
ここは水源。
当然水の蓄えはとんでもなくある。
やがて水だけであたりの景色が覆われているのに水泡はより縮んで。
ニュムペは気合を入れて両ヒレを掲げ何かを押しつぶすかのように上下に構える。
『ここに集うは散々利用された分の水の怒り。妾は水の代行者なり。今水を悪するものに、奔流の鉄槌を!』
すごい。
これが信徒に託された神の全力の戦い方……
あたりがまばゆいばかりの神力とエネルギーで満ちて離れた私にすら息をさせない。
『タッテーラトアショウ!!』
潰す。
その意思が全力で込められた押し込みでエネルギーが過剰なほどに縮まっていく。
やがて水が1つ煌めき……
静かに1つの行使が終わった。
解放された水たちは寸分たがわず湖へ戻されていく。
そして力尽きて膝らしき部分をつくニュムペがいた。
「な、なくなった……」
あまりに美しき死の演出。
何もなくなってしまった。
あの神自体はそれほど強くはなかったはず。
まさしく乾坤一擲の大技。
『さっきの技は、水の怒りに妾が応えた故の、特別な力……そうそう使えぬ』
私が心配していたのを見透かしたのかニュムペがそうつぶやく。
……か、解決しちゃった?
まさかの力技で勝手に終わってしまったか?
まあ神だからどこかで復活するだろうけれど。
それでもだいぶ懲りたはずだ。
とりあえず……
「詳しい話、聞かせてもらえますか?」
まとめるとこうだ。
ニュムペとは普段は希薄で大いなる水の流れに紛れている神だ。
普段は希薄な意識のままいろんなのころに薄く入り混じっている。
『前提として、普通に汚す分にはなんら感じない。混じるのも水だ。ただ、あれは神の力での介入、妾の領域を侵すものだった』
ドロとかゴミとかヘドロとか。
たゆたう水であるニュムペはそんなことには怒らない。
水というニュムペの神域を何かの神域が害することで初めて危険を感じたそうだ。
あくまで寿命を奪い取り云々はおまけでメインはニュムペを攻撃してきたとしての対応。
全ての水全てのところにいるわけではないニュムペは対応に苦戦していた。
それにいざ反撃をしようとして待ち構えていたらうまく避けられて……
迷宮内という顕現しやすい環境で初めて反撃がなったそうだ。




