七百二十八生目 神銀
洞窟といってもなんと言うべきか。
ちょっとした岩があるところの中に1つ下への道があった。
岩のうち1つが大きく動かされたあとがある。
隠されていたか……
この感じおそらくは天然で。
たまたま崩れた崖の岩がココを埋めてしまって果たして何百年何千年……
とにかく後を追う。
洞窟内は案外広く隠れるにはもってこいだった。
中では薄く龍脈の輝きが壁から漏れてほんのり明るい。
足場は悪いので気をつけながら追いかける。
長々と追いかけていたらやがてどこかにたどり着いたらしい。
空間が一気にひらける。
それでも更に奥へと進む。
一体どれだけ潜るんだ?
高低差の関係でとんでもない圧力がかかって水分が行き渡っているのはなんとなくわかったけれど。
やがて凄まじいまでの水の流れ音が聞こえてきた。
これは滝のように落下しているのではなくなだらかに動いているのに勢いと量が凄まじいのか。
奥へたどり着くと……
4人が見ていたのは広大な湖だった。
どこまでも広がり貯まるかのような水。
雨があまり降らない荒野の迷宮が蓄えた大きな水の集合知。
4人の認識阻害結界が解け湖へと迫る。
「凄い、これは……まるで、水の心臓……」
「サリエ殿、ココはそこまで凄いのですか?」
「ええ、奇跡的な自然の神秘でここの場が成り立っているのが見えますわあ!」
「ほっほ! つまり、今度こそ人間が飲む水源なのですな?」
「では、儂の出番だね」
やはり幹部3人と長だった。
サリエは18とかそこらへんの女性っぽいかな。
そしてシンシャはうってかわって30代……いやもう少し行ってるかな?
そのぐらいの女性だ。
格好は結構特殊だ。
ショールみたいなのが体や腰回りを回っていてさらに上部分の先端がまるで虫の翅見たく垂らされている。
上着やパンツは短くモノクルをつけている。
ピアスが至るところに刺さっていた。
あとあれはなんだろう……
服なのかな? ジッパーが腹のところにある。
ただジッパーの服ってあったっけ……
まあそこは今は大事ではない。
彼等がわざわざここに大集合したことに意味がある。
というかおもったよりも神力の気配がないな……
てっきりシンシャからはするかと思ったけれど。
なんとなくだけれどこの場所も変な感覚だし。
身構えておく。
シンシャは湖に向かって歩んでいく。
ほとりから足を踏み入れて行き……
ジッパーに手をかけた。
幹部3人が祈るように膝を折り顔を伏せる。
「どっこいしょ……さて、やるかね! 水が地下水で良かったー。この年になると、どうも冷え性がねえ。ええと、とりあえずぱぱっとやってぱぱっと帰りましょうか」
「シンシャ様……その、もう少し、せめて我々の気が引き締まるよう、何時ものくらいはしてほしいのですが」
「んあぁ〜そっかそっか。全くサリエくんたちは真面目だねぇ」
シンシャはジッパーから手を離しそっと正面へ持っていく。
両掌を強く叩き合わせ音が響く。
空気が締まった気がした。
「祈れ、それぞれの願いを胸に。紡げ、祈りの言の葉。願え、我々の命に平穏のあらんことを」
さっきまでと打って変わりまるで底から響くような声。
これが女性の声なのかと少しびっくりした。
でも神事を行うさいの声の出し方ってあるだろうからね。
そして一斉に幹部たちが等速で一斉に語りだす。
それはまるで呪文のようで。
私にも何を言っているのかわからない。
つまりこれは言語じゃない……
もっと原初的な何かだ。
その間にも儀式は進む。
改めてジッパーに手をかけたシンシャはゆっくりとひっぱって行く。
境目がほつれて半分ほどまで下げられると中身が急速に溢れ出してきた。
いや怖っ!?
服じゃなかったのか!?
血ではない。まるであれは……
水銀? しかも急速に神力の気配が溢れ出てきた。
銀色のヌメヌメとした液体が溢れ出てくる。
それが水の中に……!?
まさか毒物を!?
いやでもここまでのところでそんな最悪の被害報告はない……
何をしているんだ!?
水源の毒とは言うが井戸とわけが違う。
たいていは濾されて薄まり浄化されてほとんど効果がない。
しかも水銀みたいなやつだと余計に水銀へまぜたところでよほどの量で無い限り水に流れずここで滞るだけ。
何がしたいんだ!?
止めるべきか……しかし……
ってなんなんだこの気配!?
「ん……? な、なんだ!?」
「「シンシャ様!?」」
突如濃厚になった気配。
同時に湖が大きく変動する。
まるで心臓が強く脈打つかのように。
水しぶきを上げてシンシャが空を舞う。
どうやら向こうも想定外らしく驚きのあまり顎が外れそうなほどの顔を見せている。
いやそれよりも!
なんで急激に神の気配が!?




