七百二十三生目 恋語
ダカシの悪魔は空腹らしい。
しかも恐ろしく力尽きるほどの。
「腹を空かして食うものもないか? 神の端くれなど、笑うに笑えん」
「これは、『びっくりしたんだけれど食べられるものもないとか? 笑っていいのかわからないんだけど、自分は神の端くれでも食べ物とかほとんど関係なかったから、そんな発想はなかったよ』だってさ。確かに私もびっくりしている……ダカシ自身はご飯を食べていたし」
「その、翻訳なしで喋れないのかなあ……? まあともかくさ、この子戦闘はしようとするじゃん? 私の根にある性質って戦闘とは縁遠くてさあ、私自身もそこまで好きじゃないし、それに私の存在が今不安定だから、出力がくるって変なふうになってるんだと思うのよ。それを直接話せれば良かったんだけれど……なんだかうまくいかなくて。それで、私のエネルギーの源なんだけどさ」
ダカシがダカシじゃない動きと声で喋っているので脳がおかしくなりそうな光景。
それにエネルギー源はなんとなく察してる。
「もしかして……組み合っているときはよかったり、誰かを意識して話すと影響があるの」
「そう、この子びっっっくりするぐらい年不相応に対人関係の築き方が脆いのよねえ……復讐の炎に全部くべちゃったからかしら。私は、大本の神みたいに誰かに思ってもらうんじゃなくて、誰かとの間に発生する感情……恋が一番好物なのよ。恋こそパワー!」
うわあ快活に拳を突き上げた。
これが少女なら気にしないのだけど普段はダークな雰囲気のあるダカシがやってるのだから違和感が凄まじい。
しかしやはり疲れているのかくしゃりと体が畳まれる。
「ち、力が……足りない……」
「そうか、愛だとだめなんだね」
「愛とか全然違うし……妹さんへの家族愛とか、私の力にはならないよ」
「フン、何も言えず力尽きる等愚の骨頂にすぎん」
「おっしゃる通りで……」
「今のは『自分も昔ひとりで背負いすぎて誰にも助けを求めず悪化させた時期があって、あの時期は本当によくなった。だから手を貸したい』だってさ」
「……言語を作る力が亜空間に繋がってらっしゃる?」
あまりにもわかってしまう。
正直翻訳しててもどうかと思うところはある。
問題は生来のものらしく直らないのだけど。
「まあともかく、なにかして解消できる見込みがあるのかな?」
「まずは悩みを減らしてあげてほしい。アイツはいつも脳内で凄まじい量の悩みやら苦しみを抱えてるから、それが結構しんどいんだよね……だからかも、あっちに声が届きにくいのは」
「悩みの解消……まあ、ずっと戦えないこと自体が悩みになっていたみたいなんだけどね」
「悪循環なのねえ。とにかく、ひとつめはそれを。2つめ、つまり供給手段はハッキリ言って、アイツがモテたりアイツが誰かを好いたり、なんならそういう所に言ってラブラブオーラを浴びるだけでも良いのよ!」
「うーーーんん……いや、顔や体型、それに雰囲気も悪くないんだけど、それよりダカシって……」
ダカシは年下のバローくん他が驚くだろうレベルで恋愛感情が見えない。
なおかつ私みたいな知り合い相手ではないと朴念仁と化す。
私もそこまで他人のことは言えないがなんというかダカシは根の部分で嫌っている気がする。
いや嫌っているというよりあれは……
「ううん、さすがにもうそろそろ……」
「あ、体力がないんだっけ」
「貧弱な神体め。二度と起きることすら叶わぬかもな」
「今のは、『じぶんのほうを大事にして、今は休んでね、じゃないともしかしたら取り返しがつかなくなっちゃうかもしれないから、ゆっくり神体をいたわってあげてね』だって」
「うん……そうさせてもら……」
眠りに落ちたのか再び目が閉じられて体がかがむ。
するりと何事もなかっかのように立ち上がり目を見開いた。
……いやなんか怖いな!?
動きがまるでぬるりとしていて逆再生みたいだった。
彼の中でまさしく普通ではないことが起こっている。
ただし彼はけろりとした様子で。
「……? どうしたの、ローズ」
「記憶が、ない……!?」
「隔絶されているな。幅か」
「ん〜……もしかして、ダカシと悪魔の間に挟まれた隔絶している幅が想定以上に分厚いってことかな?」
「ちょっ、ちょっと、ふたりともどういうこと?」
ダカシの動きや雰囲気そして声が元に戻った。
なんだかそれだけで安心する。
移動しながら顛末を話す。
だんだん目が据わって行き最終的に深いふかぁいため息をついた。
なんというか……うん。
「……恋愛なんて、そもそも俺みたいなやつが、考えていいもんじゃないだろう。そういうのは、こんな血にまみれてないやつが言うことだ」
「ほら、だから悩み過ぎは直接毒になってるんだって」
「うっ……難しいな!」
ここからが肝心だよねえ。




