七百十八生目 兄妹
テクはタナトと呼ばれた者に食いつくかのように声を荒らげおかしさを語る。
しかし次第に落ち着いてきたのか声のテンションが落ち着いていく。
それは子供のそれというよりもまるで……
「――とにかく、このままでは活動ができません! 我々の崇高な儀式の邪魔になる要素は、なんであれ今のうちに取り除かねば……」
「まあ、テク殿がここまで言われるのは稀だ。儀式に魔物は不必要だけれども、この街には多くの徒人もいる。その確認には成功したから、今度こそこの街でなんとかしなくちゃならないからね」
「ほほう、サリエ殿はやはりテク殿の言葉を重く見られる、か。まあ、ワシもそこは同意ですな。最近我々は探られている……それ故にこんな所まで逃げてきたのだから、何の成果も残せず帰るわけにはいきますまい」
「……危険さが伝われば、某は問題はないのです。シンシャ様は……シンシャ様? シンシャ様!」
サリエとタナトそしてテクという3名。
テント内から響く声はその3名しかいないかに見えた。
しかし実態としてはもうひとり。
声をかけられたのに何の返答も寄越さない者がいる。
その者は奥の座椅子に座っているようだ。
そして……
「……ンガッ」
「ね、寝てる……」
「ほら、起きて起きて!」
「……んん? あぁ……悪い悪い。年を取ると早寝早起きになっちゃってさあ、こんな時間に会議とか、儂に寝てくださいと言っているようなものだ」
大きなあくび1つ。
その者は明らかに他と比べて雰囲気が違っていた。
真面目そうではないというより……どちらでもいいというような。
そんな退屈そうでなおかつ……他のものから見て格上と言ったような。
「シンシャ様、さすがにまだ早すぎますよ。この後寝られるのですから、今はしばしご勘弁を」
「ハッハ、シンシャ様は他人の話となるとすぐに緩やかに遊ばれなさる。テク殿も悠々自適な態度、学んでみては?」
「とにかく! 明日には我々の全力を出します。ここで出し惜しみしていて、必要のないような扱いを受けるなど我々の旅団として誇りが許されない! シンシャ様、某は全力でことに当たらせてもらいます」
「うん……良いよ。どうせ潔白証明に時間稼ぎ、どちらにせよやらなくちゃならない。悪いね、代わりに働かせてばかりで。儂はほら、無理すると腰がまたさ……」
「……シンシャ様、ここの医者に見てもらいますか? ぜひ患者がいるならと言っていた者と、今日某は会ったのですが」
「いんや、まだやらかしてはないからさ……遠慮しておくよ。なにせ、持病みたいなもんだから、この年になりゃあね」
「ふうむ、それは大変ですなあ……」
夜はふけていく。
4つの声をそこに閉じ込めて。
ということがあったと偵察していたチームから報告あった。
本当に裏方チームには頭が下がるおもいだ。
とりあえず安全圏から探ってもらった。
相手は神であると想定される以上踏み込みすぎると神域にふれる可能性がある。
神域のあるなしは神力持ちでなければ判別できない。
向こうにさとられるのは危険だからだ。
報告は簡潔に文章へまとめてあり読み終わったらチリも残らず廃棄。
いつも通りのお仕事っぷりである。
あとは書いてある文面をわざわざ迂遠で難解な解読が必要なものでなければいいのだけれど。
あとちゃっかり『尊き青い血になっておめでとう』みたいなこと書かれてて驚きと共に笑いつつもハラがたった。
これは私の血が黄色いのを知っていてのブラッドジョークだ。
青き尊き血なんてこの国ではなかったはずの言い回しだから伝わるか伝わらないかギリギリを攻めるのはやめろとあれほど。
ともかくデータは得られた。
今日は彼らが何をやらかすのか……
そして何を待っているのか見張ることになるかな。
「おや? ローズ?」
「あれ、ダカシ? 珍しいねこんなところで」
外で出歩きつつ訓練所近くまで来たらダカシに会った。
たてがみのないライオン風のニンゲンで皇国としては成人済みぐらいの年齢だったはず。
黒い毛がなびく。
ニンゲン……ではあるんだけれど事件のせいで悪魔に憑かれさらには取り込み融合した。
魔人……という形式になっている。
あまり歴史上に存在がいない。
なぜならぶっちゃけ半神半人とも言えるからだ。
ただ後天的になったというのはかなり特別だ。
今後も深く研究されるだろう。
それはともかくここはダカシの家近くではない。
仕事もしているらしいけれどこっちじゃないはずだし……
なんでいるのだろう?
「あれ、そういえば妹さんは?」
「アカネ? ああ、ベタベタするなって怒られてね……ちょっと体を動かしておこうかなって」
なるほど追い出されたか。




