七百十七生目 力説
こっちの意図とは違いテクたちはあまりにも活躍出来なかったと考えているらしい。
落ち込みっぷりが異様である。
ホルヴィロスも同じ結論に至ったらしくソワソワしてどう声をかけてあげればいいか悩んでいるようだ。
ただ白いワンコに見える彼は立派に神として普段からみんなの相談を受けていたりする。
なお他の神々は相談を受けているところを見たところがない。
この世界ではホルヴィロスが特異らしい。
そして私もだいたい同じ様子なのはバレているだろう。
不死旅団の面々へと自信満々に案内するはずだったテクはもはや無表情である。
これは彼を見て思ったがあくまで青年こどもくらいの年齢が真面目な顔じゃなく無表情になるとめちゃくちゃ不安にさせられる。
「……カフェ、いきませんか? 喉かわきましたし」
「……はい」
提案ぐらいしか私は出来なかった。
カフェに移動。
全員飲み物を選んで飲む。
テクが飲んだ後しきりに驚いていた。
「……これはすごい! 我々は流浪の民ゆえ、各地の茶を頂く事は多いが、これほどまでに高い茶葉の味がカフェでもらえるとは!」
「確かそのお茶って……」
「ああ、私が持ってきたやつかな。迷宮外だと枯れちゃう葉っぱを荒野の迷宮に植え替えたら、すごく無毒化したんだよね。それを丁寧に蒸すと美味しいお茶になる……って。本当は薬剤にするつもりだったから、本来の目的ではなかったんだけれどねえ」
「ここのコ、すごく淹れ方がうまいよね」
ホルヴィロスが毒沼の迷宮から持ってきた植物の1つだ。
別の用途だったけれどなんか茶葉と化していた。
「迷宮産地の……! まさしく高級な葉を利用しているのか……! 確かに、迷宮内ならばいわゆる現地、道理としては納得出来うる。我々は慈善団体の身、早々迷宮へ潜ることなどありはせぬからな……」
「それは貴重な経験になりましたね!」
やっと顔の固さが直ってきた。
今までのは理不尽だったけれど今度のは解説つき。
なんとか警戒心を下げるのに役立ったらしい。
この調子でなんとかごまかせられればいいんだけれど。
ただ向こうは向こうで悩むもの。
大きくため息をついた。
「なんだか、今回まったくうまいこといかない。これでは某たちが、まるで迷惑をかけにきているかのようで自信をなくす」
「ま、まあまあたまたま噛み合わなかっただけで……そもそも、各自で助かっていたのは事実ですよ」
「そうだねえ。細かなところでもやってくれるのはたすかるし、何より外部からの刺激は、確実に良い影響を与えるからね」
「本当に汗顔の至り。後日のために、某はこの情報を持って帰らねばなりませぬ。やや早いが、ここで抜けてしまっても宜しいか?」
「うん、こっちも結構あちこち見て回れて面白かったです。テクさんがいたから、どこでも邪険にはされませんでしたし」
「そうそう、必要なものがあるなら役所に申請していってね。余裕ならあるみたいだから。それにこっちも、できることならやるよ。特に看病なんかは得意かな?」
「はは、病人が出たならば、確かに頼りたい所で」
テクは冗談のように受け止めたけれど目の前にいる白いワンコはトップクラスの医療技術者なんだよねえ。
その日はそのままお別れとなった。
夜中。
アノニマルース外壁の近くに建てられたテント群。
ただ暮らすためのキャンプなため本格的に組まれ未だ建造途中。
しかし手慣れた彼らによって確実に全貌が見えてきていた。
……アノニマルースの面々が全面バックアップしようとしてくれて実はこの中に踏み込まれるのだけは拒否した。
資材だけはもらって自らの手で立ち上げたのだ。
それは遠慮そのものとさすがに手慣れた自分たちがやった方が後で困らないという2つで説得されている。
しかし……
闇の中に浮かぶ影はそれだけではないと主張するようだった。
テントの中で真っ先に建てられたもの。
立派な造りになっている建物はそれなのにどこか奥まって狭まった先にひっそりと建てられていた。
アノニマルースは荒野の迷宮にある関係上森は無いがめくれたように盛り上がる大地たちがたくさんある。
場合により高低差がひと山ほどありアノニマルースの天然城壁として利用されている。
逆に言えばそんなところは目が届かない。
その奥で暗闇がちらつく中で怒号がとんだ。
「なんたる失態! それで活動が続けられようか!」
「落ち着いてくだされテク殿。我々よりも優れてきた相手は何度もしてきたではないですか」
「しかしだなタナト殿。これは今までの多少上位の施設があって回している地域とは違うのだぞ。都たちのような充実した施設とは違う……こう、なんというか、次元、そう次元が違うものを見せつけられた!」
力説する少年の声はテントに吸い込まれて行く。




