七百十六生目 教師
病院内に入った。
相変わらず清潔な雰囲気と消毒のにおいがただよう。
テクはあたりを見回して目をみひらいている。
「ここが……医療室!? あまりに立派すぎるような……あっ、貴殿! ここは一体……」
同僚を見つけたらしく慌てた様子でフードの集まりに近づいていく。
不死旅団の面々は誰かを助けて……はいなかった。
目の前でナースさんに連れられていくプルプルした老獣魔物をながめている。
「医療救護者……弟子ではなく?」
「だ、駄目だ……ここの医療は俺ではさっぱりわからん、高度すぎることだけがわかる! むしろ、ここの医療を学んで外に持っていった方が……」
「なあ、さっきからの会計値段聞いてるか? 意味がわからないぐらい安い」
「なんでも、自動的に公共保健がかかって格安だとか……これでは我々の活躍が……」
「まさか、公共でそんな負担ができるわけが……何かからくりが……」
「あ、う……うう?」
テクが今度はフリーズした。
結局不死旅団の面々は錯乱したような口ぶりでここを去る。
……いやまあ病院は実際の神による力と弱い生き物たちの合作だし私の前世能力も込めているからなあ。
正直あらゆる意味で外に広がらない設備だとおもっている。
こんなかで行われているのは……早すぎるのだ。
一般的には。
アノニマルースはほぼ最初からこんなノリで変化しつづけていたが他のところでは確かな地盤が既にある。
そこでは画期的すぎるように見えて受け入れてくれるところはまずない。
少しずつ浸透し変化し節目で変わっていくだろう。
当然外から来た……しかも複数何回も何年も渡り歩いてきてノウハウが溜まっている不死旅団は衝撃だっただろう。
狭い箇所を移動するだけだったり専門性外のことだったならば受けない衝撃。
そして私は専門外なので彼らの気持ちは推し量りきれない。
病院を出た私たち。
今度は広場でこどもたちに教育をしてようだ。
青空教室というものだ。
黒板みたいなものが開かれ先生と生徒がいればそこは教室だ。
もれなく多くの若い魔物たちがいた。
「いやあ、実に助かるなあ」
「ガッコーの復習にはぴったりだよね」
「別の視点から似た問題が出るのはすごく良いよね」
「ただ文面問題はちょっと簡単すぎるよね」
魔物たちからはおおよそ好評を得ているらしい。
教師役をしていたらしき不死旅団のひとりがこちらに気づきテクへと縋るように来た。
「テク様……! ここの魔物たち、異様です……! 小さい子すら高等教育を受けたあとがあり、歴史から本の熟読までこなせます、我々の教える範囲では、荷がかっている……!」
「な、何をなさけないことを!」
さめざめと泣きそうになっている不死旅団のニンゲンを見てさすがにテクもうろたえた。
なるほど……
書いてある内容をみるとやっていることはいわゆる基礎学習だ。
彼らの言っている高等教育というのは前世感覚で言えば小学4年生あたりから突入するかもしれない。
文字が読めるのも本が読めるのはかなり別の技術だ。
義務教育というのは割と複雑に序盤から足場を組んでいくけれどこっちの初等教育はそこまでやらない。
まあようは文字の読み書きの仕方やら物と金の数え方のようにすぐ現実的につかえるものが書いてあった。
この慈善団体アノニマルースが出来た当初に来てほしかったな……
あの時の看板はみな文字情報はほとんど組み込まれていなかった。
今は殆どの魔物が初等教育を受けている。
しかも義務教育をベースに組んでユウレンの執事であるカムラさんたちが多くの教育をしている。
あまりに多岐に渡る魔物の種族をおさえ誰も下手な遅れが生まれないようにしている。
だからこそかなり複雑なシステムが教育機関で組まれているらしい。
それらのことを不死旅団のメンバーに彼らから見た範囲でわかることを語られテクが震える。
ちょっと離れた位置から彼らのことを見ていた私に果たして彼らの驚きがどれほどのものなのかは……わからない。
やがて言葉を交わし終えたらしいテクがこちらにくる。
小さくひとこと。
「行きましょう」
だんだんとテクの様子がおかしくなりながら3名の行動は続く。
とりあえず見る限り慈善団体の面々はみんな奉仕活動をちゃんとしていた。
私としては満足なのだが終わり際にはテクの様子おかしさが一周回ってやや真下にテンションが落っこちていた。
アノニマルースはみんなが作り上げた立派な街だと考えてはいるし割とこの世界での現代では革新的すぎてついていけない意識も取り入れている。
だからといって慈善団体が不必要かといえば各自で求められていた。
彼らの活動を妨害する意図はない。
そんなことをしたら早々に立ち去られてしまうからね。




