七百十五生目 医者
「どうぞー、こっちが客室だよ」
ホルヴィロスは知っている。
不死旅団のことを。
そしてこの慈善団体を不死旅団だと疑っているのも。
なので対応は慎重かつ普段どおりに。
向こうがかなり疑り深くすぐに逃げてしまうのはよくよくしっている。
ホルヴィロスは話をし続け相手の情報を出来得る限り引き出そうとしている。
そのまま仕事場をスルーして客室で。
他のところみたいに立派な客室はない。
でもまあ最低限はととのっている。
私は遅れてその場に現れた。
わざとだ。
それまでにホルヴィロスがある程度話をしていてくれた。
互いに挨拶をして向かい合い座る。
名前はテクらしい。
「――とすると、表でここに来たほうが良いと聞いたと?」
「ええ。我々はまだこの新しく土地に疎い身、僭越ながら尋ね回ったところ、まずはこちらに挨拶を交わしたほうが良いと聞き、馳せ参じた所です」
「そうなのですか……とはいえ、あまり仰々しいことはできませんけれどね。ええと、この街には奉仕や教育を施し、他の地域の話を持ってきたりしてくれたとか」
「ええ、代わりに何卒御恩を拝受できればこれ幸いと」
この時代連絡手段は結構少ない。
遠ければ遠いほどその話はどこか朧げになるしなんなら真相も有耶無耶になる。
地方どころか近い街の話でさえもってくればウケるのだ。
世界中を旅して回っているらしい不死旅団ならば話題は尽きないだろう。
「わかりました。こちらでもできうる範囲でバックアップはさせてもらいますが、実際の活動を見たりすることはできますか?」
「御意。某が共にいれば、邪険にされることはありますまい。こう見えて某、そこそこの地位を団体内で築いているために」
「へぇー、そうなんだ? 若く見えるけれどすごいんだねえ」
ホルヴィロスの感心に対して気を良くしたのか今まで堅かった彼の顔がふと笑顔がたされる。
すぐに引き締められるがどこか年相応に見えた。
「よく言われます」
そのまま私たちはアノニマルース内を移動する。
既に街中で活躍している慈善団体の姿があった。
やはり最初に目を突くほど多くいるのはゴミを回収する者たちだ。
アノニマルースは若干観光街も目指している。
まあそれを言わなくてもそもそも魔物だらけで不可思議な街だから人目を引く。
自然に行き交う面々は増えるわけで。
アノニマルース住民たちには口をすっぱく耳にタコができるほど衛生概念に関しては言われていてアヅキ担当なだけあってかなりの力を入れてある。
そのためまあまあ美しい環境作りができているものの外から新しく来た者たちや観光客それに商人なんかは別。
彼らは彼らのルールにのっとって動くため案外ゴミを出すのだ。
そして拾う仕事の者たちが間に合う時ばかりではない。
そもそもちゃんと回収できるように捨ててというのもあるし。
さらにまとめたゴミは各家庭や業務がゴミ回収のとこまで出さないといけない。
それも面倒かつ大変なので回収してくれるのはかなり助かるのだ。
「なんなんだこの街……ぜんっぜん汚れがない……」
「誰ですか、魔物の街ならばさぞや汚れが気になっていると言っていたのは」
「回収……燃焼……廃棄……りさいくる……? 嘘、まさか公共が全てのゴミを管理しているの? そんな作りがあるわけが……あ、承ります、もっていきます!」
テクがゴミを拾い集める面々を見てなんだか様子がおかしくなる。
いやまあなんかみんな小声でよくわからないことをいっているけれど。
私は耳が良いけれどなんとか太子みたいに同時に声を聞き分ける術に長けているわけじゃないし意識してなきゃ聞き流してしまう。
震えていたテクがこちらを見て大きく笑顔を花咲かせた。
「……あちらへ行きましょう! 我が団体の仲間が活躍しているはずですから!」
「そういえば、慈善団体の名前ってあるんですか?」
「あ、はい。慈善団体オンスタと呼びます」
オンスタね……ここは事前情報とかわりない。
逆に言えばほぼ確定である。
あんまり自分の団体名を言わないらしいがたまにもらしていたらしい。
今なんだか変な様子だったからいけるかなと思って踏み込んだらいけた。
きょとんとしながら答えていたし。
場所を移動して。
お年寄りたちの手助けとして医療施設や各家庭に出向いてくれたらしい。
肩を貸すように老化して震えている魔物を連れて行ってくれたのを見て……
病院から出てきたフードを被った面々……つまり不死旅団のメンバーたちとすれ違った。
「わからない……何、あれは……この建物も……医師の家じゃない、なんなんだ……?」
ぼそりとつぶやく声がやけに印象へと残った。




