七百十四生目 青年
出かけるという時に限って用事は舞い込むんですよね。
はい知っていました。
私の耳に入れたいと一報が入ったのはさっきのこと。
「主、あの群れです。普通の群れならば我らと主、一切揺るがないと自信を持って言えるのですが、あれは見るからに異常すぎます」
「教えてくれてありがとうアヅキ。どれどれ……」
私とアヅキは遥か高い夜の空を飛んでいる。
ちなみにちょうど荒野の迷宮と地上では昼夜を逆転するため昼頃に表の世界で動いていた面々がこっちにきて真夜中というのは珍しい話じゃない。
ゲートをくぐってきている集団は歩みを止めず歩いている。
「なんだろ……あれ」
「ニンゲンたちの群れのようですが、あのように奇妙な群れは見たことがありませんね。難民たちのほうがまだはっきりとした雰囲気がありました」
その集団は……
ぼやけていた。
なんと言えばいいのか。
本来そこにいるものたち。
ニンゲンたちの集団への認識そのものがぼやけるのだ。
相当高度で言われなければ真横を通っても気づかないだろう。
あまりに自然へと雰囲気を溶け込ませる……
結界の一種かな。
今私たちが見られているのはそもそも裏方チームがたまたま結界があることに気づけたからだ。
普段から同じようなことをしている面々なため違和感を真っ先に気づいた。
今私たちはそこにいるという確証を得てから見ているからなんとかなっているのだ。
うっかり目をそらすとわからなくなっちゃいそうな溶け込み方。
この結界を使うのはいくつか理由が考えられる。
第1に魔物避けだ。
野良の魔物たちは当然邪魔な相手は襲ってくるから攻撃はするが……
そもそも迷宮の街道は兵たちによって安全がかなり確保されている。
それを知らなかったとしてもこの大所帯だ。
魔物たちはあんまり敵が多いと息を潜めてやりすごす。
少なくとも10人程度ではない。
ぼやっとしていてわかりにくいけれど。
「彼らのコト、どうしましょうか?」
「危険な集団ならばいろいろやりたいところだけど……正直まだよくはわからないよね。兵器のたぐいは見えないし」
鳥車はいくつかあるもののほとんどが材料のように見える。
料理や建築の品だ。
武装するニンゲンも見えるっちゃあ見えるけれど護衛程度のようにみえる。
ただ私が気にかけているのは実はそこじゃない。
前に受けた依頼……
不死旅団の存在だ。
例の不死を噂する不気味な慈善団体……
彼らが名乗ったわけではないが資料上は不死旅団と呼ばれている。
まさしくといった名前だが他にも理由がある。
不死旅団の活動記録がはるか昔……とはいえ公的に記録をとれているのは100年もないのだが……その前よりも存在が記されている。
まあ旅団そのものが氏族たちの集まりとして形をなし続けるのはそこまで珍しくはないんだけれど。
その有り様がずっと変わらないようなのは不可思議なのだ。
それこそ神がトップならば……ずっと変わらなくてもおかしくはないだろう。
私はやっぱりそこらへんを疑っている。
結局その日は疑うだけで何もしなかった。
裏で経過は聞いていたけれど。
アノニマルースについた彼らは外壁すぐ近くに天幕を建てだした。
突如できた旅団キャンプ……に見えたのはこれが原因だろう。
慌ただしい朝が始まる。
基本こういう集団は自らの存在を理解してもらうために説明をしに来る。
今回も例外はなかった。
ぼやけていたころにはわからなかったが皆同じようなローブに身を包んでいる。
門番……という名の観光案内所と化しているところへ通知が届けられ犯罪性が認められないため受理された。
内容は当たり障りない。
色々と奉仕するので見返りにこの場所と食事などをしばらくほしいというもの。
簡単な質疑応答のあとに快諾。
身分証になるものは持ち合わせていないようだが別に珍しい話ではない。
受信機リングが身分証のかわりになると彼らに教えられた。
そのまましばらくはたいした問題は起こったようにはみえない。
ほどこしを起こしたり生活拠点を整えたり……
ゴミを拾ったりなんだりと暮らしている。
私のところにもひとりやってきた。
家をノックして来たのでホルヴィロスが迎え入れる。
「はいはーい! おや、もしかして噂になっている……」
「こんにちは、某は新しく表に来た旅団の者、ぜひ顔見せ通し願いたく!」
元気よく入ってきた少年。
青年との間……かな?
15や16といったところか。
国によっては成人認定される年齢だ。
皇国は17だっけな。
それにしても話し方がやや年齢を感じさせるけれど。
ただ雰囲気は明らかに子どもだ。
作法は丁寧で手慣れている。
ホルヴィロスは中へと招いれた。




