七百十三生目 祝賀
私は結局即断した。
その様子にランムは目を丸めコヨリは仮面の裏に笑顔を隠す。
彼らもプロだ。心の変化はすぐに覆い隠す。
まあにおいは変わってるのでどうしようもないけれど。
「いいわねえ、気に入ったわあ」
「我々が言うことではないかもしれませんが、別に報告は、特に目立った問題はなかった、でも良いのですからね」
「ええ、まあ。ただ、こちらもこちらで調べられるツテはありますから」
その場はさらに言葉を雑談程度にかわして終わった。
これからの争いを予感させるかのように。
そして部屋から出たら小さく「うわっ」て声が。
扉の前にニンゲンがいたらしい……
ってああ。さっきの少年。
「ごめん、開けるタイミングミスしたよ」
結界は外側の音もシャットアウトしてしまう。
普通なら気付けるニンゲンたちの歩む音もわかるものではない。
するとなんだか少年はバツの悪そうな顔をしている。
……?
まあ良いか。
「それで、怪我とかは?」
「あ、も、もちろん大丈夫だよ! それよりさ、あんた、じゃなくてあなた様って伝説の存在って本当?」
「えっ……?」
私はそっと廊下に出て扉を閉めた。
他の面々も出る予定だったから突然の犯行に驚いているだろう。
ただ私もめちゃくちゃ驚いているので許してほしい。
案内してくれた少年は抑えきれないキラキラの気持ちでこちらを見てくる。
いやいやなぜそうなっている。
「伝説って?」
「ああっ! それって伝説の人が身につけているとされるスカーフ! 本物のローズオーラ様だ!」
「うえっ!? 確かにローズオーラではあるけれど……」
「みんな! ローズオーラ様だ!」
一体……何?
そうしている間にどんどんとニンゲンたちが集まってきた。
口々に本物か本物だと話している。
「クーランの銀猫がここまで急成長した、生きる伝説じゃないか!」
「みんな! うちのトップが彼女だぞ!」
「この本にサインください! 憧れてここに入ったんです!」
「今日は宴だー!!」
ワッショイワッショイと周囲に騒がれだした。
え? え?
扉が開く。
中からふたりぶんの目がこちらとあった。
そして周囲を少し見回して。
扉を閉じた。
「ちょっと助け」
「さあさあ、今日は酒をあけるぞ! みんな、うちらの伝説から話を聞く準備はできたか!?」
「「おおー!!」」
「ちょっ……!?」
そのまま運ばれるように私はその場から離れることとなった……
こんばんは昨日大変だった私です。
依頼を受けたは良いものの実は皇国内近くに現れた慈善団体は既にそこそこ前には消えている。
ただ過去の記録からしてあくまで移動はふつうだ。
噂になる段階になるとふらっといなくなる。
また手持ちの分で生活が厳しくなったら人里へ来るはずだ。
それまでは耐えの時間となる。
つまりまた近くにはでるはず。
海を渡る時は港町が最終出現になるので今回は違うのが確定だ。
そして今私は……暇である。
正確にはやるべきこととやりたいことはたくさんえるのだけれど。
それとは別に何もさせてもらえないのだ。
最後の大掛かりな治療とその後経過観察という風になっているらしくて植物ベッドの中で液に浸かりながらホルヴィロスに診てもらっている。
私自身はゆっくりすることを厳命されているせいで動けない。
ああ……近くに慈善団体がリポップしていないかな。
「はーい、もういいよっ」
突然溶液が排出される。
自動的に乾燥までやってくれて万全な状態で蓋があいた。
ふぅ……
どうやら特に問題はなかったらしい。
問題はないというのに凄まじくホルヴィロスがすぐれない顔をしているけれど。
理由はなんとなく想像がつく。
「……やっぱり、調べた限りでは異常は見られなかった。衰弱化も想定の範囲で、ローズが現在から回復する水準まで持っていけるのは容易に想定できるほどに」
「蒼龍や朱竜の言った、上位神の力を行使した影響、だよね? まあ、結局朱竜との力でなあなあに慣れたんじゃないかな」
「だといいけれど……あと……」
ホルヴィロスはもじもじするように言葉を足していく。
「これでローズをドクター判断で家に縛り付けられなくて……」
「よしじゃあ行ってきまーす!」
「あああぁーー!!」
聞かなかったことにして元気に出かけた。
ホルヴィロスが別に嫌いってわけではない。
ただこの何十日間か目が見える範囲でハチャメチャにベタベタしにきたので処置なし。
ホルヴィロスは自身の恋を一切諦めておらずなんなら今でもスキあらば狙ってくる。
私側にそういった感情がわかない以上もはや対処のパターンに困っているほどだ。
うーん困る。
貴種関係のゴタゴタも話しておいたし来た手紙の処理なんかの話を感謝したらものっそい喜ばれて怖かった。
というわけで今はやっと自由。
さーて出かけるぞ!




