七百十二生目 不死
月組を動かすには大げさすぎるゆえに頼まれる慈善団体の調査……
なんだかさっぱり話が見えてこない。
「まるで、私にわざわざ頼むほどのものとは思えないのですが……もっと、専門の方は多いでしょうし、確かに月組が動くのは大袈裟でも、それこそ捜索機関はありますし」
「もちろん、そこらへんは検討をしました。依頼主は我々の横の組織1つから、本来はそこまで議題が上がってくることなどなかなかないのですが、最初に地元警備で調査が行われて、どんどんと扱いきれなくなり上で扱う物と判断され、現在に至ります。そこまでに解決できればよかったのですが……何も発見できないか、誰も帰ってこないかの2つでした」
「帰ってこない……!? やっぱり危険では?」
どんどん自分の管轄ではどうしようもなくて上に投げていくハメになっているってだけで厄なのに帰ってこないニンゲンもいるなんて……
そもそも慈善団体をなぜそうも何度も調べているかも不可思議だ。
明らかに厄を抱えている。
ランムも書類を机上に広げつつ苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「なんとも断定できない話で。今ここにある資料のように、間違いなく団体は慈善団体です。各地に赴き、善意の元地道な活動を行っています。清掃活動、読み聞かせ、簡単な教鞭をとり、手伝い、簡素な治療、他にも多数……街にほどこしを行って、見返りに食事などを受け取り、じきに消えるように去る、そういったスタイルをとっています」
「……? すごく良い団体に聞こえるのですが」
「まあ、大枠は。宗教上の修行としてこのようなことを行うことは、珍しくはありますがないこともないです。ただ……彼らは特定の宗教を掲げてはいないようでなのですが」
前世から見ればボランティア活動団体にあたるなあ。
たしかに先進的な考えと動きではあるとは思うけれど。
それで警戒までしつづけるのは謎だ。
……ん? この書類に書いてあるのは……
「これって、不死……? 彼らは不死をうたうのですか?」
「不死ではなく、不死……長生不老のことのようです。彼らは宗教ではないのですが、しきりにそのことをほのめかす話を民たちにしていることがわかりました。それこそ、世間話に混ぜて若さや長生きの話をする感覚で、ひとりひとりはそうそう気付け無い範囲でしょうね」
「さらに……なるほど。移動範囲が凄まじいんですね。情報がある範囲だけでも、まるで世界を股にかけるような移動をしている……」
「それがなかなか調査が進まない理由ですね。いきなり消えてしまうようにいなくなるので、なかなか深入りできないのだとか。施設が不審という以上にいくつかのきな臭い話が出ています。調査隊そのものではなく、逃げ帰った民間人によると、怪しい儀式を執り行っていた……それと、犯行計画の話をしていたこともあった、と」
おっと? 突然きな臭さがましてきたぞ。
私がついてきているのを見てからランムは話を続ける。
「怪しい儀式の噂はいくつか。勧誘された者たちと共に、何かを飲まされようとしたとか、いかにも不気味な部屋があったとか。それはともかく盗み聞いてしまった犯罪計画では、水源に何かを混ぜる話をしていた、とか……まあ、すぐに団体は消え、街からの評判が良かったためその者の話は街で信用はされていませんでしたが」
「どんなトンチキな話に聞こえても、複数箇所で見つかれば別……ということですか」
「ええ」
インターネットがない世界だからそんなに簡単には話が広がったりはしない。
よほど有名なら別だけれど大半の物語はそうでもないからね。
「これは……知り合いが慈善団体のもとにいった数日後、見かけたら不自然な程に若返っていた? なんなのですか、この載っている声」
「詳細は不明ですが、気にはなりますね……なにせ、10年以上若返って見えた者もいたとか。実際に、不死……というよりも、若さを保ちたい、または取り戻したいというものは数少なくありません。それも1つの人々が抱える大きな欲ですから。だからといって数日で唐突にそこまで化けるのは……」
「それはまあ、そうでしょうね。老いても若々しくなんて言葉もありますし。逆に言えば唐突に時間を逆らった動きを見せたのは気になりますね……もしかして、神、そちらの定義からいうと越殻者案件と?」
「これまでの経緯的に、様々なことを鑑みても越殻者案件だとこちらでは見ています」
神案件……!
なるほどあらゆる意味で私に任せたいわけだ。
ただ明らかに区分としては冒険者の域を越えていた。
「国際的に、しかも奇跡的な何かを起こし、もしかしたら悪徳をしようとしている……」
「実際、帰らなかった者たちがいるのは事実……お願いできますか?」
「わかりました」




