七百十一生目 調査
勝手に貴種へとされた。
「それで……説明はしてもらえるんですよね。いきなり血統書が後から生やした理由を……」
「ウフフ、やっぱりそこが気になりますよねえ。まあ、理由は単純なんですよお」
そこで一拍不自然な間があって。
コヨリの目がまっすぐとこちらを見抜く。
「貴方が活躍しすぎたのです」
……!
今声だけで心臓を指で舐め回されたような錯覚が……!
良くない方向のゾクゾクッとする感覚。
末恐ろしい。
仮面の向こう側から覗く目は確かに上の立場で振る舞うものの力だった。
「はっきりいって、この国はまだまだ昔からの因習が強く残っているなのよ、それはハイカラなのも、ハイカラではないものも。よって、貴方へと、特に貴方の正体へと注目が集まったなのよ」
「正体……一応インタビューなんかでは素直に答えられる範囲は答えていますが」
アノニマルースの宣伝も兼ねているので実は魔物だということも伏せていない。
そもそも勇者の一行だというのが大きい。
更に魔王討伐という功績が凄まじくその前には種族などかすむ。
ただランムはあきれまじりに首を横に振った。
「民衆どころか賢人すらも、突然現れた魔物の1匹がニンゲンと関わり言葉を話し、次々功績を上げる……こんな怪しすぎる者、経歴からなにまで全部信じられませんよ普通は」
「うっ、外から聞くと確かに……」
「それと納得もしないのよねえ、面倒な家柄や派閥の関係は、まだまだあるなのよ。貴方は特別だった。だから納得できるようなバックボーンが必要だったなのよ。多分貴方の元に大量の求婚だの誘いだのそれともっとおぞましいものも、たーくさん届いているはずなのよ?」
「きゅ、求婚!? ……あっ」
少し考えをめぐらせて。
そういえば私の代わりに事前処理していてくれているホルヴィロスとホルヴィロスの部下たち。
ホルヴィロスがふと何か疲れたような悩ましげなような目をしていたことがある。
あれかあ……!
私に伝えてないってことは全部迷惑メールとして処理していったんだな。
うーむ帰ったら感謝しとかないと。
普段は感謝すると無限に喜ばれるのでやらないのだけど。
「やっぱり心当たりはあるんですのよねえ。正直な話、こちらもかなり面倒なことになってるのよー。一体どうしたら良いかってなるほどに、本当に面倒で……」
仮面の向こう側にある目がどんどん光を失っていく。
なんか……大変な事になっていたんだなあ。
こっちはこっちで全拒否状態だから余計にこじれたのがありありと理解できる。
「面倒なので、もう一気に解決しちゃおうってなりましたなのよ! これからは、それを使って……そしてこれからは、ピタッとその手の誘いなんかが消えると思うから、よろしゅうに」
「あ、ありがとうございます……?」
何をする気なんだろう。
ニッコリ笑顔の中目の奥は笑ってない。
いや正確には……まさしく牙を剝いた獣のように笑っていた。
「さて、ワタクシからは以上なのよ。だからあとは……」
「ええ。わたしの番ですね。さて正直に言えば、これで恩を売れるとはこちらも考えてはいません。ただし、恩以上に重要なことは……あなたが一介の冒険者ではなく、別の顔を持ってもらえたということです」
「……というと? もしや、冒険者としてではない依頼を、国がしたいとか?」
「察しが良くて助かります」
嫌なことに気づいちゃったなあ!
国が冒険者に頼むことはわりかし多岐に渡る。
ただそれは割と小口での依頼だ。
例えば新薬の素材回収ならば医学研究機関から。
迫りくる魔物の群れを退けるのは街の行政。
しかしこれはわけが違った。
「おそらく政府からの依頼とか、そういう段階を越えているものもあると考えても?」
「今はわからないけれど、少なくとも可能にはなるかと。既に国をまたいだ冒険者の区分ではない、政争すら巻き込んだ戦いに身を投じたことはあるのでしょう?」
バレてる……何もいわんとこ。
「あらあ、すごいのねローズはんはぁ」
「こそこそする必要はなくなるということですね。あなたに授けられた権限は想像以上に大きい……なので、今後は出来得る限り堂々と受けるようにしてください。こちらも大変なのですから」
「はい……というよりも、今回もそんなにまずいものなんですか? もう聞きたくないのですが……」
「いや、今回はまずくも危なくもない……はず……きっと……おそらく」
恐ろしく歯切れが悪い。
おそらく月組としては口にするときそれ相応の確信がほしいのだろう。
だがやる前なので結果的に蛇が出るか魔が出るかなんてわかったもんじゃない。
「んもう、ビビらせるのはハイカラではないなのよ?」
「結局、何が……?」
「まあ、言ってしまえば、慈善団体の調査です。月組を動かすにはいくらなんでも大袈裟すぎる、さりとて気にはなる……そういった、中途半端なところにちょうどよく動かせる戦力がほしいということですね」
慈善団体の調査……?
まるで恐ろしさは感じないが。




