七百十生目 家名
国家機関は恐ろしかった。
魔王のことは大丈夫だろうか?
いや別に魔王の詳細って知る組織なら知っている話なのだ。
ただなぜか月組がそのことを知らされていなかった。
ムダ骨調査みたいになってしまって色々こっちも申し訳なかったが……
どうやらその情報を流さなかった面々は月組にアノニマルースを知ってもらうために色々仕組んでいたらしい。
今となったはそうとしか思えない。
ランムさんからわざわざそのことについて語ることはないが。
後々裏方に調べてもらったところ似たような事実は発覚する……
「そもそも、神がどうこうの力というのは、あなたが目の前でみせてくれたので初めて理解をするために調べ上げたのですよ。あの日、世界を壊さんとするような空と戦った貴方が、ただの魔物と考えるものはまずいないでしょう」
「そ、それは……」
「あと、さっきからの態度で裏付けはとれましたね。まあ、我々は神などというふわっとした既存の言葉定義には当てはめて考えてはいませんが」
うっ……まただ。
なんか昔も私のうっかりで全部バレたことあったなあ!
似た手口を思い出す!
「えぇー? 神様の方がようハイカラじゃない?」
「ハイカラかどうかではありません。過去の文献にあたると、同様のように特別な力を振るったものたちがいました。勇者とその盟友たちです」
「勇者の……盟友!」
その単語は前朱竜が言った。
あの時は流して聞くしかなかったけれど改めてなんだったんだろう。
ドラーグが神化せずに神の力を手に入れたことについて言っていたようだけれど。
「勇者とその盟友たちは、力や魔力が強いだけでは片付けられない、超常的な奇跡をおこしたとされていたます。それだけならば、英傑伝としてよくある話だと流し読めるのですが……昨今あった魔王騒ぎによる勇者とその一行の動乱、そしてあなたの、敵対する邪神にすら匹敵しそうな気配を放つ、あの天を覆った存在の領域を削ぎ撃ち抜いた力。そもそも我々も何度か試しに攻撃していたのですが……なにかに阻まれるように不気味な手応えだけが返ってきたというのに」
「えっ、危険ですよ!? 初耳なんですが」
「でしょうね。言っていませんでしたから。話を戻しますと、これこそが勇者の盟友が持つ力だと我々は確信に至りました。我々は、その力を持つ者を『越殻者』、そしてエネルギー力を塗世力と名付けました」
さらっと初耳情報が……!
そしてニンゲン側もエネルギーと存在をついに名前をつけることで正確に認知しだした。
ええと神化したりして神力を使えるのがエクシーダーで神力そのものをPPというのか。
まあ私はそう言われると理解だけしておけばいいかな。
「つまり私は、越殻者という扱いになるんですね」
「少なくとも。勇者や、他のものたちも調査が済み次第そうなるでしょう。失礼、本筋の腰を折りました」
「いえ、気になることだったので助かります。そしてこの家系図なのですが……明らかに異様ですよね。そもそも私が魔物だから、かなり無理がある組み方ですし、海外の血筋多すぎではないですか……?」
そもそも国家ぐるみでの家系図の偽造なんてまさしく歴史の勝者がやることじゃないか。
数百年後にバレるやつ。
もちろんその頃にはなんの問題もないのだが。
「ごめんね、関係各国で調整に苦労しちゃったのね」
「関係各国!?」
「我が皇国はもちろん、帝国、大河王国、あと最近交友が出来た朱の大地という大陸から、煉民主国
とか他にも色々ですね」
途中で口をはさみたい気持ちを全力で抑えて関係各国の話を聞く。
いやおかしくないか!?
本当につい最近まで調整していたのか!
世界規模の詐称である。
それ以上家系図を見ていると気持ち悪くなりそうですそっと閉じた。
見なかったことに出来ないかなぁ……
「見なかったことにはできませんけれど、とりあえず見えないようにしておくのはいいことなのよー」
「はぁ、まさかこんなことになるとはこちらも想定外でした。秘密裏にものごとを進めよという話だったのに、どうやら肝心の上方たちが話好きかつ仲の良い間柄も多いようで、しかも貴方を話題の中心にしたのでどんどん広まったらしく……外交とはままならないものですね。我々の担当ではないですが」
「まあ、世界が手を取り合うなんてハイカラなことなのよ」
コロコロと鈴を転がすように笑うコヨリさん。
うーんくえないお人だ。
というか何をやらかしてくれんだろう外交担当。
そんな世界の手のとり方しなくていい……!
もう有無を言わさせないじゃん……!
「なるほど……………っ。これが、これ自体がひとつの危険でしたか」
「一応ファミリーネームはツカイワとされてます。でも、名乗らなくても別に良いと思いますなのよー?」
「ええっと……ありがたく受け取らせてもらいます」
なんて返すのが正解なんだ!




